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第58話 悠介side
「はっ!?」
「どうしたの?大きな声出して。」
休み時間、スマートフォンに届いたSNSのメッセージにビビって立ち上がった。安達君が不思議そうに見てくるけど構ってられない。
「実家に帰るって!?何で!?」
慌てて教室を飛び出して千紘ちゃんの教室に飛び込んだ。
「千紘ちゃん!」
「わっ!先輩!」
「実家に帰るってどういう事!?」
場所も弁えず大きな声でそう聞いたから、教室にいた1年達に変な目で見られてしまった。
いやそれはともかく!
「何で!?辞めるの!?」
「いや、辞めませんけど······。兎に角大きな声を出すのやめてください。皆驚いてる······。」
千紘ちゃんにそう言われて口を両手で覆った。
「ごめん、ビックリしちゃって······。」
「いえ、大丈夫です。······それより先輩、もう授業が始まっちゃいますよ。」
「今はそれどころじゃないよ······。何で帰っちゃうの?」
「お母さんに何も伝えてないんです。恥ずかしいけど、発情期の事も······運命の番の事も、話さないと。」
それを聞いて少し安心した。
もし辞められでもしたら、俺は千紘ちゃんの実家を知らないから追いかけられないし。
「俺もついて行っちゃだめ?」
「んー······だめ、かなぁ。今回は遠慮しておきます。次は一緒に行きましょう?」
「本当?次は行っていいの?」
「はい」
千紘ちゃんにそう言われて、嬉しくなって頷いた。
「······ていうか千紘ちゃん?」
「はい?」
「泣いたね?目元が少し赤い。」
俺が言い当てたことに驚いたのか、元から大きな目を見開いた千紘ちゃんは困ったように笑い「バレちゃった」と言う。バレちゃったじゃないよ。何で泣いてるの。
「どうしたの」
「大丈夫です。友達のことだから、自分で解決できます。だから心配しないで」
「······わかった。無理はしちゃダメだよ。辛くなったら直ぐに言うこと。もっと俺に甘えていいんだからね。」
「······やっぱり高良先輩は優しいですね。」
すごく切なげにそう言われると、俺まで切なくなる。
俺が千紘ちゃんを守りたいのに、運命の番なんてものに邪魔されて。
だから運命の番なんて嫌なんだ。自分で選べない人間を番として受け入れろなんて横暴すぎる。
「千紘ちゃん、好きだよ。」
「······ありがとうございます。」
大切な人の隣に並べないなんて。
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