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第59話 千紘side

残りの授業を受けて、直ぐに寮に戻り荷物を持って寮を出た。学園の門まで送ってくれた高良先輩と匡に手を振ってタクシーに乗り込んだ。 最寄りの駅までタクシーで移動し、そこから電車に乗る。 電車にもオメガ専用だとかアルファ専用だとかの車両があったけど、何も表示のされていない車両に乗り、その電車に1時間、それからしばらく歩いてやっと家に着いた。 「ただいま」 「お帰り!!」 母さんが迎え入れてくれる。 優しく抱きしめられて、俺も母さんの背中に手を回した。 「父さんは?」 「仕事よ。今日も帰ってくるかわからないわ。」 悲しげにそう言った母さん。 うちの両親はベータだ。でも父さんは母さんをまるで自分がアルファだとでもいうように見下している。 「母さん、我慢しなくていいんだよ。」 「いいの。あの人は会社でアルファ達に散々こき使われてるの。家でくらい大きくいたいのよ。」 「だからって母さんを傷つけていいわけがないよ。」 「ねえ、その話はもうやめましょ。千紘の話をして?学校、どうなの?」 母さんはそうして嫌なことから逃げるから駄目なんだ。もっと面と向かって言いたいことを伝えたらいいのに。 「運命の番に会った。」 「えぇっ!?」 でも、そんなことは言えずに、家に上がって自分の事を話す。 「実は入学してすぐに······は、発情期が来て、その時お世話になった先輩は優しくて好きなんだけど······運命の番の人はちょっと······。」 「発情期が来たの······?大変だったわね。よく頑張ったわ。」 母さんにそう言われた途端、涙がぶわっと溢れて止まらなくなった。 「千紘、無理しなくてもいいのよ。」 「······無理じゃないっ」 強がって首を左右に振る。涙を拭って唇を噛んだ。 「千紘」 「無理じゃないんだよ、でも······色々あって、ありすぎて······整理できなくてっ」 高校生になった途端、猛スピードで物事が動いている。 「番はゆっくり考えたらいいと思う。まずは千紘の気持ちを整理しないとね。」 こくこくと頷いて、それから2、3度深呼吸をした。

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