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第71話

会長の部屋から学校に行くと、匡が血相を変えて走ってきた。驚いて固まる俺の肩を掴んで「兄貴と暮らすって本当か!?」と大きな声で聞いてくる。 「そうなっちゃったんだよね。」 「何でだよ!」 「わかんない。帰ってきたら寮から家具が無くなっててね、管理人さんに今日からこの部屋を使ってって言われて行ったら会長の部屋だった。」 「······その首輪は?」 「会長から貰った。」 俺の言葉で溜息を吐いた匡。怒っているのか呆れているのかわからない。 「アルファがオメガに首輪を渡す意味は?」 「えっ、知らない。そんなのあるの?」 「ああ。お前······もう兄貴から逃げられないぞ。」 「何で······?」 何でそんなに怖いことを言うんだ。 怯えながらもじっと匡の目を見る。 「アルファがオメガに首輪を渡すのは、もう自分の所有物だっていう証だ。わかるか?結婚指輪と一緒なんだよ。」 「えぇっ!?」 そんなの聞いてない!慌てて首輪を外そうとして、会長から言われた言葉を思い出し手が止まった。 「は、外せない······。」 「あ?」 「俺、これ外したら······お仕置きされるから······。」 震える手は首輪に触れただけで、そこから動かせない。 「お仕置きされるの、怖い。」 「千紘······」 「俺、そんなの知らないよ。アルファから首輪を渡される意味なんて、知らなかった。」 声が震える。それを抑えることが出来ない。 「······とにかく、お前の意思で外せないなら兄貴に外させるしかない。俺や高良先輩が外すのは違うと思うから。」 「ど、どうしよう······命令されて、それで着けただけなんだ······」 「ちっ、アルファからの命令をオメガが拒否出来るわけねえだろ。あいつ······汚い手使いやがって。」 匡はそう言って怒っていた。 俺も怒りたいのに、何故か胸の中はほっこりしてる。全く怒りの感情は湧いてこない。 「千紘、聞いてるか?」 「ぁ、ごめん······。」 「······項は噛まれてないなら番は成立していない。けどその命令が厄介だ。高良先輩に上書きしてもらうのも手だと思うぞ。」 「高良先輩にこれ以上迷惑かけられないよ。」 首輪を撫でて、匡の横を通り過ぎ席に着く。優生君は相変わらず「おはよう」って言った俺の事を無視する。 でも何故か、寂しくなかった。 首輪があるだけで酷く安心できた。

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