73 / 876

第73話

*** 今日も学校が終わり寮に戻ると千紘がいて、「おかえりなさい」と言って迎え入れてくれた。 「会長、これ外したい······。」 「駄目だ」 早速首輪を外したいと言ってきた千紘をサラリと流し、制服から部屋着に着替えた。 「千紘、おいで。」 「何ですか······」 ソファーに座り、千紘を呼ぶと近づいてきて隣に座る。そんな千紘を抱き上げて膝の上に乗せた。 「甘えてみたい。俺を甘やかしてくれ。」 「はぁ?何かあったんですか?」 そう言いながら俺の頭をポンポンと撫でてくれる。俺が親から欲しかった愛情はこういうもの。 「俺と匡の仲が良くないのは、俺のせいなんだ。」 「······聞いてもいい話ですか?」 「ああ。聞いてくれ。」 決して気持ちのいい話じゃない。 それでも聞いて欲しいと思ったのは、相手が千紘だからだと思う。 「俺の家は金持ちだ。だからそれなりの身の振り方を叩き込まれた。」 「お金持ちも大変ですね。」 千紘の感想に苦笑を零す。 確かにすごく、大変だったと思う。 中学も高校も自分で選んだんじゃない。 小学生の頃から勉強を強要されて、遊ぶ暇なんてなかった。 でも俺はそれが当たり前だと思って、親の敷いたレールの上を歩き、気が付けば反抗なんてものも知らずに高校生になっていた。 俺はそんなつまらない人生だったのに、匡は俺と全く違った。 中学も高校も自分で選んでここまで来た。 友達を作って遊び、親に反抗する。その癖に成績はいつだって良くて、だから親は匡をあまり怒れない。 「あいつは自由を知ってる。俺はそれが羨ましい。」 「匡は、会長が御両親の言いなりになってるのが気に食わなかったんですね。」 「ああ。きっとそうだ。1度大きな喧嘩をしてな、それ以来まともに話せもしない。俺は匡と話す事を恥ずかしいとすら思ってる。あいつは自由だから、自由を知らない俺はあいつと同じ土俵で話せない。」 千紘を抱きしめる腕の力が自然と強くなる。 俺も匡のような生き方をしたかったんだ。 「会長」 「······会長じゃない。」 「······偉成」 「何だ」 名前を呼ばれるのは嬉しい。 特に千紘に呼ばれると、胸が暖かくなる。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!