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第79話 偉成side
千紘が眠った後、誉に電話をかけた。
時間は22時。まだまだあいつも起きているはずだ。
「何だ」
「千紘が嫌がらせを受けてる。」
「······嫌がらせ?何でだ。」
「分からない。下品な言葉を掛けられたり、物が無くなったりしているようだ。」
そう言うと誉は1つ深い溜息を吐いて「わかった」とだけ言い電話を切った。
きっとすぐに対処をしてくれるだろう。
自分の仕事も早々に終わらせ、ソファーで眠る千紘を抱き上げ寝室のベッドに移動させる。
オメガだからか、千紘は俺よりずっと小さい。それに伴って体重も軽くて、運ぶのにそんなに苦労はしない。
そんな千紘を守ってやりたくなる。
何者からも千紘が傷付けられないように。
「おやすみ」
まだ幼さの残る寝顔。
額にキスをすると、千紘がもぞっと動いた。
「ん、ん······」
小さく唸り、寝返りをうつ。
ああ、可愛い。
アルファを誘うしなやかな体。
本音を言えば身体中を舐めて、愛して、早く俺のものにしたい。
項を噛みたい。
寝返りを打ったことで見えた項に顔を寄せる。
「千紘······千紘······」
性行為中でなければ、ここを噛んでも番の契約は結ばれない。それはわかっているけれど、心がセーブをかける。
「っ、······はぁ、ダメだ。」
今日は離れて眠ろう。
千紘といた方がぐっすり眠れるけれど、それよりも襲ってしまいそうな程、千紘に触りたいから我慢をしないと。
「······偉成」
「え······」
「寝ないの······?寝ようよ······。」
寝室から出ようとすると千紘が目を覚ましたようで、掠れた声でそう言ってくる。
「悪いが、俺は向こうの部屋で寝るよ。」
「······何で?ダメ。俺が寝れなくなっちゃう······偉成の匂い、安心するから眠れるの。」
胸がドキドキとうるさく音を立て出した。違う。千紘はそういうつもりで言ったんじゃないと分かっている。それでも、もしかすると俺の事を好きでいてくれているのではないかと、錯覚してしまう。
「今日はやめておくよ」
「やだ······偉成······っ」
体を起こしそばまで歩いてきた千紘は、俺の手を掴んでベッドに連れていこうとする。
そうだ。俺が我慢すればいいだけの話なんだ。ぐっと唇を噛んで、同じベッドに寝転び、擦り寄ってくる千紘を抱きしめて考えるのは勉強の事。
「偉成······何か悩んでるんですか?いつもと、匂いが違う······。」
「いや······大丈夫だ。気にしないでくれ。」
「気にします。何に悩んでるの?」
「······もう眠いんだろ。明日話すから、今日は寝ろ。ほら、目閉じて。」
そう言うと素直に目を閉じて、背中をとんとんと軽く叩いていると、次第にスースーと寝息が聞こえてきた。
ああ、今日は緊張して眠れないかもしれない。
意識しすぎてしまうのも良くない。わかっているけれど止められない。
「······俺も寝たい。」
明日もし千紘が学校を休むなら、俺も休むことにしよう。
1日ゆっくりと心と体を休ませる必要があると思う。
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