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第92話
「何も知らないんだな。」
「は?何が?」
ニヤニヤと笑う安達君。
自分の気持ちを押し殺して、声を出す。
「あの2人は運命の番だ。」
「······運命の番?」
「あの子が媚びてるんじゃない。むしろ会長の方が千紘ちゃんを欲しくて仕方ないんだ。」
俺は運命の番に出会ったことがないからわからないけど、喉から手が出る程、千紘ちゃんの存在が愛しくて、欲しくて堪らないはずだ。
「運命の番なんて都市伝説か何かでしょ?そんなの······」
「本当だよ。だから俺も抗った。千紘ちゃんを会長の物にさせない為に。でも······千紘ちゃんが幸せになるなら、邪魔になるような事はやめないとね。」
自分にそう言い聞かせる。
邪魔はしちゃいけない。そのかわりサポートをしてあげる。
俺は見守るから、会長は幸せにしてやって。
俺はそうやって祈ることしか出来ない。
「そんなの······じゃあなんで高良君は今も松舞を守ろうとしてるのっ?無意味じゃないか!」
「言ったでしょ?俺の大切な子なんだ。結ばれなくたって守ってあげたい。」
苦しくなるほど切ない。
逃げたくなるほど辛い。
今までの人生で、欲しかったものが手に入らなかったのは初めてだ。
「あの子が幸せなら、それでいいんだ。」
そう伝えると、何故か安達君が泣き出した。
そんなの辛いって言いながら。
「俺は運命の番じゃないけど、君が欲しくて仕方なかったんだ。だから松舞を虐めた。オメガでもそうやってあらゆる手段を使って手に入れそうとするのに!君はアルファなんだから、俺なんかよりもっといい方法があるでしょ!?」
「あれ、何?応援してくれてるの?」
「っ!」
今度は俺がニヤニヤと笑う番。
安達君は唇を噛んで、悔しそうにしていた。
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