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第96話
***
「本当に行かなきゃダメ?」
「ああ。1度行ってみて、ダメだったら帰ってくればいい。」
朝、寮から出て学校に向かうまでの間、偉成の横を歩いて何度も同じことを聞く。
「また虐められたらどうしよう。偉成がいても、不安だよ。」
「安心しろ。絶対に俺が守ってやるから。」
目を見て言われると照れちゃう。
校舎に入って、教室まで送ってくれる会長に甘えて、やっとドアの前に立つ。
「ドキドキする」
「匡もいるし、大丈夫だ。家に帰ったら存分に甘やかしてやる。」
「本当?絶対ですよ。」
「ああ、約束な。」
ドアに手を伸ばし、開ける。
たくさんの目が俺を見て、緊張しながら中に足を入れて振り返り会長に手を振る。
「また」
「ああ。行ってこい。」
自分の席までほんの少し。
俺の前の席には優生君がいる。
「お、おはよう······」
返事がないことを覚悟で挨拶をした。
匡が俺達のことを見てるのがわかる。見守ってくれてるんだ。
「······おはよう」
「え······」
下げていた視線を上げると、優生君が俺を見ていた。
「おはよう、千紘君。」
そう言ってくれたのが嬉しくて、目からポロポロと涙が零れていく。
途端優生君は慌てだして、匡もそばにやってきた。
匡がハンカチを貸してくれて、それで涙を拭く。
「優生、今まで千紘を無視してたこととか、謝らないといけないことがあるだろ。」
「······う、うん」
優生君が立ち上がって俺の目の前で頭を下げる。
驚いて目を見開いた。頭を下げられる程酷いことはされていない。
「今まで······、無視したり、安達先輩と一緒になって意地悪してごめんなさい。」
「え······ど、どういう事······?」
安達先輩と一緒になって······?
意味が理解できなくて首を傾げる。
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