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第98話
「待てよ!いつの間にそこまで話が進んだんだ!俺は聞いてないぞ!」
「だって昨日だもん。真剣に考えて決めた。逃げないって話した。」
匡は信じられないみたいだ。優生君はというと、難しい顔で俺を見て「高良先輩は······?」と聞いてくる。
「うん。すごくお世話になったから、ちゃんと話しをするつもり。申し訳ない事したな······本当に。」
「まあ、高良先輩はお前には優しいから怒りやしないだろう。」
「······そうだといいけど······。」
先輩の気持ちを蔑ろにしたんだ。裏切りだと思われても、怒られて悲しませたって仕方がない。
それでも先輩には許してほしい。そう思う俺はきっと傲慢だ。
***
優生君とも仲直り出来て、いつもの関係に戻れた。それは嬉しいけれど、高良先輩のことを考えると気分は良くない。
「千紘、晩飯ができたぞ。」
「······高良先輩に偉成のことを話そうと思う。沢山お世話になったから。」
「それはいいが、何て言うつもりだ?」
「······偉成と番になるって。」
「それなら言わない方がいい。高良は特にお前の事を欲しがっている。俺のものになると知ったら、次の発情期の時邪魔をされる。」
真剣な顔でそう言うから、きっと本気でそう思っているんだろう。
「高良はお前を自分のものにしようとする筈だ。もしお前を奪われたら、その時は高良を殺す。」
「物騒なこと言わないで。高良先輩は嫌な事はしないよ。すごく優しい人なの。初めて発情した時も先輩がいなかったらどうなってたことか······。」
俺の恩人でもある高良先輩を殺すだなんて冗談でも言って欲しくない。
会長を睨み付けると会長は怖い顔で俺に近づき腕を掴んだ。あ、会長の匂いが変わった。これは怒っている時の匂いだ。
「千紘、お前は俺のだろう。俺のこと以外考えなくていい。」
「え······」
「匂いでわかる。不安に思ってるんだろう?それは高良に対してだ。違うか?」
腕を掴んでいる会長の手の力が強くなる。
痛みが走って、その手を振り払おうとすると、それより先に口を覆うように顔を掴まれた。
「ん······偉成······!」
「お前の番は俺だ。」
「······っ、離して······!」
なんとか偉成から離れて、怖くて逃げようと部屋から出る。
「っわ!え······千紘ちゃん!?」
「せ、先輩!」
少し走った先に高良先輩がいて、勢いよくぶつかった。何かを察したようで、先輩は「こっちにおいで」と俺の手を取り、先輩の部屋に匿ってくれた。
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