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第99話

「何があったの?」 久しぶりに見る高良先輩。柔らかい笑顔を見ると泣きつきたくなって、縋るように先輩に抱きついた。 「ち、千紘ちゃん!?」 「偉成が怖くて······っ」 「何されたの?」 「先輩の話をしたら怒ったの······っ!」 こんなこと先輩に言うべきじゃないんだろうけど、他に助けてくれそうな人はいない。汚いって思われてもいい。それくらい俺の心が揺れている。 「俺の話したの?へえ、それは嬉しいなぁ。」 「······俺の身になって。怒られて顔掴まれたのなんて初めて。」 「会長そんな事するんだね。まあ、自分のオメガが取られそうになったら誰だって必死になるか。」 高良先輩の手が俺の顎に触れて、クイッと顔を上げさせられる。 「千紘ちゃん」 「え······んんっ!」 突然キスされた。先輩を押し返そうとしたのに、その手を取られてしまう。 「俺の所に逃げてきたなら、触ってもいいでしょ?」 「ぁ、ちが······っ、ま、待って、やだ······っ!」 床に押し倒された。ぶつけた背中が痛い。 首を振って「嫌だ」と言っても、先輩は困ったように笑うだけ。 「こ、高良、先輩······」 「ねえ、俺がどれだけ我慢してたか知ってる?」 「え······」 両手を頭上で先輩の手によって拘束される。心臓がうるさく音を立てて、恐怖で涙が溢れ出た。 優しい先輩なはずなのに、どうしてこんなことになってるんだろう。 「千紘ちゃん、泣かないで。」 「っ、先輩、やだっ、やめて······もう、離して······っ」 「何で······、何で会長の所に行っちゃうかな······。直ぐにでも逃げてくると思ってた。そしたら俺も、こんなに傷つかなくてよかったのに。」 高良先輩の目が潤んでる。 俺は、いつの間にかこんなにも先輩を傷付けていたらしい。 「ゆ、るして······ごめんなさい······」 「うん。許すよ、だから俺も許して。」 頬に涙が落ちてくる。 だんだんと先輩の顔が近づく。 あ、またキスされる。 そう思ったのと同時に、すごい音を立てて部屋のドアが開けられた。

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