100 / 876

第100話

ドアの方を見ると会長が立っていた。その表情には何も無くて、変わりに香ってくる匂いがさっきより濃くなっている。 「高良、今すぐ千紘から離れろ。」 「······まだ番じゃないんでしょ?それなら会長の指示に従う義理はないよね。」 「千紘が怖がってる。好きな奴を怖がらせて楽しいのか?」 会長がそう言うと、先輩は苦虫を噛み潰したような表情になり、俺から離れる。 部屋の隅っこに逃げて恐怖で体が震えるのをなんとか抑えようと、自分の腕で自分を抱きしめて俯く。 「千紘、大丈夫だ。安心しろ。」 会長の怒った匂いが薄れて、いつもの優しい匂いがした。顔を上げて手を伸ばすと、会長が俺の手を取り、そのまま抱きしめてくる。 「お、怒ってた癖に······っ!」 「ああ。悪かった。」 「馬鹿っ!もう嫌い!偉成も高良先輩も嫌いっ!」 偉成の胸を叩いて泣き喚く。 俺が悪いんだろうけど、怖くて堪らなかったから責任転嫁してやる。 「バカぁっ!俺だって、色々考えてるのにぃッ!」 「そうだな。お前の意見も何も聞かずにすまない。」 「最低!ばか、ばか!!」 そんな俺の腕を取り、顔を近づいてきてキスをされる。これで流されてたまるか。俺にだってちゃんと考えがある! 「今日は部屋に戻らない!嫌いだ!」 「許してくれ。怖がらせて悪かった。」 「やだ!離して!」 「もう責めたりしないから、帰ってきてくれ。」 黙って会長の胸に額をつける。 頭を撫でられて、やっと気持ちが落ち着いてきた。 「ねえ、そういうの2人の部屋でやってくれない?俺に見せつけて楽しい?」 「······高良、お前とはちゃんと話をしないとな。今日は帰らせてもらう。」 「勝手にして。」 高良先輩も怒ってるみたいだ。 会長はそれを理解して、俺を連れて部屋を出る。 「偉成も高良先輩も怖かった。」 「ああ」 アルファの圧力は大きいから、ろくな抵抗もできなかった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!