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第102話

会長の匂いが変わった。 深い深い悲しみの匂いだ。パッと顔を上げると会長と目が合って、そこには表情がなかった。 「偉成······?」 「······千紘は受け入れてくれたと思っていた。そんなに高良が気になって、運命の番を否定したいなら高良を選べばいい。お前が本当にそれを望むなら、お前の幸せの為に、俺は手を引こう。」 目を伏せて、そして俺から離れていく。 あ······、また間違えた。会長自身を否定したんかったんじゃない。 「ま、待って、違う······!」 「違わない。きっとそれはお前の本心だ。······俺から逃げないって言ってくれて嬉しかった。でもきっとそれは、運命の番っていうものに縛られていたんだ。これからはそんなもの考えないで動けばいい。俺はお前を追わない。」 ダメだ。崩れていく。 折角培った絆も愛情も、簡単に。 「ご飯、食べようか。」 「······うん。」 どうしたら上手く話せるんだろう。 誤解を生むことなく、真っ直ぐに伝えられるだろう。 離れていく。距離が遠くなる。 寂しい。そうなる原因を作ったのは俺なのに。 「······やっぱり嫌だ······。偉成、離れないで······。」 会長の背中に抱きついて、震える声でそう伝える。 ちゃんと伝わる方法はまだわからないけど、何もしないよりずっとマシだ。 「千紘、無理しなくていいよ。」 「無理じゃないっ!」 会長の正面に移動して、ジッと目を見る。そのまま肩に手を置いて背伸びをし、勢いよくキスをした。 「証明するからっ!」 そのまま手を掴み寝室に移動する。 離れないでいてくれるなら、俺は······。 ベッドに会長を押し倒した。その上に跨って服を脱ぎ捨てる。 「千紘······、やめろ、無理にこんなこと······!」 「無理じゃないのっ!」 つなぎとめる為に必死だ。こんなの格好悪いだろうけど、構ってられない。 もう1度キスをして、会長の服を脱がせていく。 「お願い······。離れないで······。」 俺が自分勝手なだけ。 会長と高良先輩は俺に巻き込まれただけ。 「好きだから、お願い······。」 それでも俺を嫌いにならないで、偉成にだけはそばにいて欲しい。

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