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第107話 悠介side

「何してんだろ、俺。」 喧騒のやんだ部屋。 1人になって、やっと自分が千紘ちゃんを無理矢理犯そうだなんて、最低な事をしようとしていたと自覚した。 自分自身に呆れて、力なくソファーに座る。 怖がらせたし、絶対に嫌われた。 体を横にして、腕で光を遮断する。 会長が迎えに来てくれてよかった。もしそれがなかったら、俺は本当に千紘ちゃんを傷付けていたから。 「······でも、酷いなぁ。」 俺に助けを求めて縋ったくせに、結局会長の元に戻るんだ。······それも、運命の番だと仕方がないのか。 俺が先だったのに。 俺の方がずっと隣にいたのに。 「くそ······っ」 悔しい。 千紘ちゃんは好きで会長を選んだわけじゃない。それだって運命の番のせいなのに。 落ち込んでいると部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。でも今は返事をする気にもなれなくて、無視を決め込む。 「なあ頼むって、居るんだろ。シャンプー貸してくれ。」 ああ、赤目君だ。 今君のお兄さんと一悶着あってね······そんな事を心の中で思っていると「開いてるじゃん」と言ってドアが開けられ、赤目君が無断で部屋に入ってきた。 「シャンプー貸して」 「······他に言うことあるでしょ。」 「何か悩んでんの」 「······まずはお邪魔しますじゃないの?」 兄弟で無断で部屋に入ってくる。失礼にも程があるだろう。 「何でそんなに落ち込んでんだ?」 「君のお兄さんのせいでちょっとね。」 「······千紘絡みか。次の発情期で契約するって言ってたもんな。」 「は?それは聞いてない。」 そこまで話が進んでいたのか。 ならもう、俺には介入する隙間すらないんだ。 「ねえ、シャンプー貸してあげるから、代わりに俺の事慰めてくれない?」 「話を聞くだけならいいぞ。でも先に風呂に入ってくる。」 「え、無理。先に話聞いて。」 赤目君の腕を引っ張ってソファーに座らせる。渋々ながらも聞こうとしてくれるこの男。きっとモテるだろうな。

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