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第109話 匡side
風呂から上がって髪を乾かすのもそこそこに高良先輩にシャンプーを返しに行く。
生徒会役員は俺達みたいな普通のアルファと違って、特別な広い部屋を与えられているから羨ましい。
コンコンとノックをする。返事がなくて、待っているのも面倒だし、1度も2度も同じだろうと鍵のかけられていないドアを開けた。
「先輩、返しにきた······って、寝てんのかよ。」
さっきもいたソファで、眠っている。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
「おい、起きろよ。風邪引くぞ。」
「······ん」
肩を揺らすと嫌な顔をされて、手を振り払われる。
ベッドまで運んでやるかと思ったけど、先輩は俺と身長が同じくらいだし無理があるな。
「おい、寝室入るぞ。」
寝室から掛け布団を持ってきて、先輩に掛けてやる。寝返りを打ちむにゃむにゃと何かを言った先輩。閉じられた目から涙が溢れる。
「そんなに千紘が好きかよ」
諦めきれないなんて可哀想だ。
この人の前に、早く新しいオメガや大切な人が現れたらいいのに。
「おやすみ」
そう言ってシャンプーを風呂場に返してから、部屋をでる。
鍵は寮だし忍び込むやつなんていないだろうと思って開けたままにするつもりだけど、大丈夫だよな。
「······どっちが先輩なんだよな······。」
面倒な先輩だ。
でも、今は千紘の事で脆くなっていて、崩れてしまわないように誰かが見ていないといけない気がする。
「おいお前、そこで何をしてる。」
まだ高良先輩の部屋の前で、鍵をどうするか悩んでいた。その時声をかけられて振り返る。
「ああ、あんたか。」
「そこは高良の部屋だ。」
「先輩にシャンプー借りて返しに来たらあの人が寝てて、鍵締めれないから悩んでただけだ。」
現れたのは生徒会役員の東條先輩。
眉間に皺を寄せて「あいつは······」と言いながら溜息を吐く。
「あ、そうだ。あんたが先輩の事見ていてやってくれよ。」
「何のことだ。というかお前は1年だろう。言葉遣いに気を付けろ。」
「あーはいはい。面倒くせぇな。俺の兄貴に千紘を取られてショック受けてる高良先輩を見ていてやってください。」
「······お前の兄?」
こくりと頷くと、誰の事かわかったのか、また溜息を吐く。
「わかった。鍵はもういいから、お前は早く部屋に戻って寝ろ。22時を過ぎてる。」
「文句は高良先輩に言ってくれ。俺は早く寝るつもりだったのに話を聞けってうるさくて。」
「······高良が迷惑をかけたな。」
「別にいいけどさ」
そして東條先輩に「失礼します」と言って、自分の部屋に戻った。
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