113 / 876

第113話 偉成side

千紘から電話があったから、何事かと思えば匡が体調不良になったらしい。 教室まで行き、千紘を抱きしめてから匡に向き直る。 「何でお前がいんだよ」 「お前がフラフラで危ないから送ってって頼まれた。」 「はあ?」 匡の荷物を持ち、千紘に軽く手を振って匡を教室から出した。 「······俺があんたのこと好きじゃないって知らないのか?」 「知ってる。でもお前は弟だから、放っておけない。」 「千紘に頼まれたからじゃねえのかよ」 「それもあるが、それはきっかけなだけだ。」 階段を降りて、校舎から出る。 匡は俺の数歩後ろをついて歩いてくる。 「薬はあるのか」 「······ないけど、寝たら治るだろ。」 「風邪薬なら持ってるから、後で届けてやる。」 「要らねえっつうの。」 そう言うくせに荒く呼吸をしてフラフラと歩く。 「ちゃんと前見て歩け。」 「······見てる」 ああもう、きっとこのままこの頑固者を1人にしたら、水分もとらずに体調が悪化するだろう。 「お前、今日は俺の部屋に来い。お前を1人にしてられない。」 「は······?誰がお前と······」 「千紘もいるぞ。とにかくお前は薬を飲んで早く寝ろ。」 寮に着いて、自分の部屋に帰ろうとする匡を無理矢理俺の部屋に連れ込んだ。 「ほら、飲め。」 「······っち、わかったよ。」 薬を飲ませ、ベッドに寝かせる。 しばらくすると小さく寝息をたてて眠った匡。こうしてちゃんと面と向かって話をしたのは久しぶりだ。 「······緊張した。」 うまく話せなかった。もっと優しくしてやればよかった。 こんなんだから俺は匡に嫌われてしまうんだろうな。 ああ、そろそろ学校に戻らないと。 部屋を出て鍵を締める。匡がいること、千紘に言っておかないと。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!