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第120話 匡side

暑い。カッカとする体が辛くて目を覚ました。 飲み物······っと思ってあたりを見ると、見慣れない物ばかりで、ここが兄貴の部屋だという事を思い出した。 サイドボードの上に置いてあったスポーツドリンクを飲んで、トイレに行こうと寝室から出る。 「······どうした。」 リビングに出ると兄貴が小さな声でそう言った。 声のした方を見ると、千紘に抱きつかれて寝転んでいる兄貴がいた。 「トイレ」 「そうか。」 トイレを借りて、フラフラとした足取りで歩いて寝室に戻る。 また眠ろうと思っていると兄貴が寝室にやって来て、「大丈夫か?」と聞いてくる。 「暑い」 「汗かいたなら体拭いてやるから服着替えろ。風邪が悪化する。」 「······千紘はいいのかよ」 「今はぐっすり眠ってる。ちょっと待ってろ。」 そう言って部屋を出て、しばらくするとお湯とタオルを持ってきた兄貴。 服を脱がされて背中を温かいタオルで拭われる。 いつもは俺と目を合わすことすらしないくせに。 「······お前、俺のこと嫌いなんだろ。なのに何で俺の面倒見てんの。」 「は······?それはお前だろ。」 兄貴が本気で不思議そうな声を出す。 いや、は······?なのは俺の方だ。 「俺はお前を嫌っていない。それに昔俺に嫌いって言ったのは匡だぞ。だから俺はお前に嫌われていると思って······。」 「お前だっていつも俺のこと馬鹿にしてたろ。ババア共と一緒になって非難してたくせに。」 「それは······。俺には分からなかった。お前の生き方は俺にとってはわざと不利な方を選んでいると思っていたから。」 兄貴の弱々しい声なんて初めて聞いた。 胸と腹を拭かれ、「服着てもいいぞ」と着替えを渡される。 「下はどうする」 「足だけ自分で拭く。あとは明日風呂に入る。」 「わかった。······俺達はお互いに勘違いをしていたんだな。」 笑えない話だけど笑えてくる。 兄貴が俺を嫌っていると思っていたから、俺も近づかない様にしていた。そして俺も同じようにだんだんと嫌いになっていっていたのに。 「千紘と会って変わったのか?」 「······そうかもな。自分が幸せを感じているから、前よりも人に優しくなれたと思う。」 「そうか。俺は正直兄貴と千紘を応援してなかったけど、兄貴が変われたならいいのかもな。」 「高良を応援してたのか?」 「まあ、そうだな。あの人は優しい人だって知ってたから。」 高良先輩あれから大丈夫なのだろうか。東條先輩に頼んだから何ともないとは思うけど。 足も拭き終わり服を着てベッドに寝転ぶ。少し体調もましになった気がする。 「おやすみ。」 「ああ、おやすみ。」 兄貴が部屋から出て行く。 それを眺めてから眠りに落ちた。

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