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第126話
手を洗い、服を着替えて偉成の所に戻る。
テーブルの上には美味しそうな肉じゃががあって、口元が緩む。
「美味しそう······!」
「手洗ったか?」
「うん!」
椅子に座って、手を合わせる。
死ぬほどお腹がすいてたから、ご飯にがっつくと会長がくすくす笑うから、口をパンパンにしながら俺も笑ってみせる。
「ゆっくり食べたらどうだ?ご飯は逃げないし、俺も取ったりしないぞ。」
「んっ!」
ゴクッと飲み込んで「そうだけど!」と反論する。
「美味しいもので口の中をいっぱいにしたいの!」
「けど上品じゃないな。」
「······上品じゃなきゃ嫌?偉成が嫌ならやめる。」
食事中の1つの楽しみでもあるけど、一緒に食事をとる人が嫌がることはしちゃダメだ。
そう思いながらちらっと会長の顔を見ると、今度は苦笑していて、おかしなことでも言ったかな······?と少し不安になる。
「嫌じゃない。千紘が美味しそうに食べえてくれると俺は嬉しい。」
「でも上品な方がいいんでしょ?」
「上品な千紘も見てみたいが、俺は普段の千紘が好きだ。」
「······偉成は褒めたりとか、人を喜ばせるのが上手だよね。」
普段の俺が好きだなんて言われたら照れる。会長から視線を外して肉じゃがに目を向ける。
「千紘」
「なあに会長······あ、間違えた。」
「お前、まだ俺を会長って呼ぶつもりか。俺の名前は赤目偉成だ。せめて苗字で呼んでくれ。役職で呼ばれるのはあんまり嬉しくない。」
「ごめんなさい。間違えたの。いつもは偉成って呼んでるでしょ?」
偉成の表情が少し暗くなる。そう言うつもりじゃなくて、つい間違えて呼んでしまっただけで······。
「怒らないで······?ごめんなさい。」
「別に怒ってない。ちょっと寂しかっただけだ。」
「そっちの方が心が痛い······。」
なんとか偉成に機嫌を直してもらうために、執拗に偉成の名前を呼んで、ご飯を食べ終わった後はお皿洗いをして、ソファーで休んでいた偉成に抱きつきいつもよりももっとくっついて甘えたのだった。
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