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第132話
逃げるように部屋から出た。
珍しく自販機で炭酸飲料を買って、ベンチに座り溜息を吐く。
「ここにいるなんて珍しいな。」
「······誉か。」
何かの資料を持ち、どこかに行った帰りなのか、自分の部屋の方に足を向けていた。けれど俺が顔を上げて誉の目を見ると、誉は俺の隣に腰をおろした。
「それに炭酸なんて飲んで。本当に珍しい。······あのオメガと喧嘩したのか?」
「······怒らせた。傷つけてしまった。アルファの本能に逆らえなかった。」
「逆らえるわけがないだろう。目の前に手に入れたいオメガがいるんだ。欲しいと思っている分、お前の気持ちも焦っているんだろう。······俺も同じだ。」
ああ、そうだ。
······誉にはずっと手に入れたいと思っているオメガがいる。
「何度も傷つけている。俺はこういう性格だからな。」
「初めてだったんだ。こんなに俺のものにしたくて、何度も噛んだ。痛いって言われてもやめられなかった。」
「······お前のオメガはアルファのことを何か勘違いしているのかもな。」
それはどういう意味なのだろうか。俺にはあまりわからない。
「アルファはオメガやベータと違って優秀だ。けれど同じ人間だから、本能には逆らうことは難しいし、失敗を犯すことだってある。それを理解していない人間は沢山いる。」
「千紘はきっと理解してくれているぞ。」
「アルファとオメガは考え方が違う。きっとどこかで勘違いをしている。」
立ち上がった誉。俺を見下ろして馬鹿にしたように小さく笑う。
「必死で謝るお前を見てみたいな。」
「ふざけるな。お前もさっさと番を見つけろ。」
「馬鹿言え。無理なのはお前も知ってるだろ。」
誉は誰の番にもなれない。
いや、なれるはずなのに、なろうとしない。
「無理じゃない。」
「······無理なんだよ。じゃあな。早く仲直りしろよ。」
誉が居なくなって、1人で千紘のことを考える。
俺もオメガの本能について知らない事は山ほどある。千紘もそうなのだろうか。
「どちらにせよ俺が悪いんだけどな。」
謝る他に術はない。
千紘は今頃眠ってしまっただろうか。腰を上げて空き缶を捨て、部屋に向かった。
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