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第139話
「松舞走れ!」
「ええっ!?」
まだバトンを受け取っていない。なのに走るなんて許されるの!?そんなルールは知らなくて言われた通りに走ってると右手にバトンが渡されて、強く握り一生懸命足を動かした。
「千紘君!頑張ってー!」
優生君の声が聞こえる。
風を切って走る感覚が気持ちいい。
「うぁっ!」
なのに、足が縺れて転けてしまった。
折角井上君と田中君が上位を守ってくれたのに、俺は次々に抜かされてしまった。
それでも直ぐに立ち上がって走り、橋本君にバトンを渡す。
「松舞君、こっちにおいで。膝から血が出てるから処置してもらおう。」
「あ、でも······最後まで見たい。」
自分のチームが何位になるのかも、偉成が走る姿もちゃんと見たい。
偉成がスタートラインに立ちながらも、俺をチラチラと見てくる。自分の膝を指さして、口パクで「大丈夫?」と聞いてくる。
こくこくと頷くと安心したような表情になって、直ぐに目の前のことに集中した。
走るのが好きな橋本君が、いつの間にかグングンと人を抜いて、1番になった。
そして、ほぼ同じタイミングで匡と偉成にバトンが渡った。
2人が一斉に走り出す。
1歩の幅が広い。あんなに早く走れるなんて羨ましい。
ああ、今日も偉成は格好いいな。
あっという間に2人はゴールの前まで行っていた。
そして、先にゴールテープを切ったのは偉成だった。
匡はすごく悔しそうにしていたけど結果は2位。俺が転けてしまったのに、その結果になったのが嬉しい。
「皆ごめんね······」
「大丈夫だよ。それよりほら、足の処置してもらおう?」
「うん」
立ち上がって保健の先生がいる方に歩いて行こうとすると「千紘」と名前を呼ばれて突然浮遊感に襲われる。
「偉成!?」
「落ちるぞ、じっとしておけ。」
偉成にお姫様抱っこされてる!慌てて偉成の首に腕を回した。
「歩けるよ!」
「痛いだろ。派手に転んでた。」
「言わないで!苦手なんだってば······」
「でも可愛かったぞ。よく走ったな。」
たくさんの視線を受ける。恥ずかしいけど、なんか······偉成は俺の物なんだって見せつけられている気がして優越感もすごい。
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