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第162話
しばらくは家でゆっくり過ごした。
父さんとは数える程度しか会っていない。会ったとしてもろくな会話もしないから、最早いてもいなくても同じだ。
そんな中、ついに今日は偉成がやって来る。
駅まで迎えに行って、待っていると改札を通って出てきた偉成を見つけて、思わず飛びついた。
「偉成!」
「千紘······会いたかった。」
偉成の匂いがいつの間にか感じていた不安を和らげていく。ああ、心地良い。
「ごめんね、母さん達迎えに来れなくて······。」
「そんなのいいんだ。それより暑かっただろう。千紘もわざわざ迎えに来てくれなくても良かったんだぞ。」
「いいの!偉成に早く会いたかったの!」
偉成は柔らかく笑って俺の頬を撫でる。それからキスをして、「行こうか」と自然な流れで手を繋いできた。
「今のすごくキュンキュンした」
「どれだ?」
「手を繋ぐの!え······格好いい。格好良さが倍増してる······。ちょっと離れてただけなのにすごいね。」
「そうか。千紘がもっと俺を好きになるように俺はもっと頑張ろう。」
「いや、そこまではしなくていい。」
そう言うと不思議そうな顔をする偉成。別にそんな頑張りは要らない。俺は普段の偉成が好きだから。
「それにしても暑いな。」
「家に帰ったら冷えたジュースあるよ!」
「ああ、それは嬉しいな。」
冷え切った父さんもいるけど。そんなことは口が裂けても言えないから何も知らないふりをして偉成と一緒に家までの道を歩いた。
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