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第163話
家のドアを開ける。
偉成はどんな気持ちなのだろうか。
「ただいま······」
そろりと家に入ると「おかえり!」と母さんの元気な声が聞こえてきてビクッと体が震えた。
「お邪魔します。」
「あら、いらっしゃい!偉成君よね。······本当に格好いいわねぇ。どうぞ、何も無いところだけど寛いで行ってね。」
「ありがとうございます。」
偉成が家に上がってる。その事実にドキドキして仕方が無い。思わず腕を掴んだ。
「どうした?」
「······ドキドキする」
「何でだ?」
「わかんない」
靴を脱いで家に上がった偉成。リビングに案内すると、そこにはもう父さんがいて胸が苦しくなった。
「お邪魔します。」
頭を下げてそう言った偉成を嫌な目で見る父さん。
「これ、家の近くで人気のお菓子なんです。良かったら食べてください。」
「ありがとうねぇ。そうだ!皆で食べましょう?」
母さんだけがキャピキャピとしてる。俺は緊張でどうにかなりそうなのに。
「赤目偉成です。今日は時間を設けてくださってありがとうございます。」
「······千紘の父親です。で、今日は何の話かな。」
「はい。今日は千紘君と番の契約を結んだ事について、お話をしに来ました。」
偉成の手をギュッて握りたい。でも······偉成も父さんも真剣だから、そんなことしちゃダメだよね。
「契約······そうか。成程な。」
「はい。夏休みに入る前です。ちょうど千紘君の発情期が来たので······」
「穢らわしい」
父さんのその言葉で空気が凍った。
俺は何を言われたのか理解出来なくて、頭の中が真っ白になる。
「俺の息子がオメガだなんて。」
「あなた······っ!」
「オメガなんて我が家には必要ないんだ。俺がどれだけ必死で働いてるか······。それをオメガのこいつが学費やら何やらで金を持って行って······」
視界がぼやけてくる。
父さんは俺をそんなふうに思っていたんだ。
「······っ」
「番になったのなら、千紘はもう君の物だ。好きにすればいい。」
「······わかりました。では好きにさせていただきます。千紘、帰るぞ。」
泣いていた俺を無理矢理立たせた偉成。怒っているのかいつもと全く匂いが違う。
「千紘!偉成君っ!」
「失礼します。」
恥ずかしい。
こんな家族と偉成を会わせたことが。
俺が、父親から愛されていないことが。
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