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第164話
泣いている俺を連れて歩く偉成。
そのまま駅に着いてなんの荷物も持たずに電車に乗り、どこかに向かう。
「······偉成、ごめんね、俺······。」
「何も謝らなくていい。千紘は悪いことなんてしていない。」
「······ごめん、なさい······俺が、オメガだから······っ」
「千紘っ!」
肩を掴まれて無理矢理視線が合う。
「お前がオメガなのは悪いことじゃない。」
「······っ」
「それに、千紘がオメガじゃなかったら俺はお前と番になれていない。番になれたことがこんなに幸せなんだ。俺は嬉しい。」
「······偉成ぇ」
偉成の胸に顔をつけて泣く。悲しくて仕方がなかった。ああやって父さんに俺自身を否定されたのは初めてだったから。
「大丈夫だ。もう2度と千紘を傷つけるような言葉は言わせない。それが千紘の父親であってもな。」
「っ、ありがとう······っ」
悲しくて辛いのに、偉成の言葉1つで気持ちが楽になる。俺を守ってくれるのはこの人だけだ。絶対にこの人から離れるもんか。そう強く思う。
「どこ行くの······?」
「今日はホテルに泊まろう。それからどうするか決めよう。そうだ、千紘の服を買いに行かないといけないな。初めてのデートだ!」
「っ、ふふ、そうだね。」
俺の悲しい気持ちを紛らそうとしてくれてる。だから俺もそれに乗っかって少しでも忘れることにした。
「千紘、お前はそうやって笑っていろ。俺が守ってやる。」
「ありがとう。じゃあ俺は、偉成の事を守るよ。」
そうして2人で歩いていく。
否定されても、変わらずに。
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