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第174話
***
ドキドキする。
偉成がいつもの服装でいいって言うから、偉成が選んでくれた服を着て、大きな邸の門の前にたっている。
「······怖い」
「落ち着け。母さん達は別に怖くないぞ。」
「し、失礼なことしちゃったら、どうしよう······?」
「気にしなくていい」
普通に邸に入っていく偉成。俺はこんなにも緊張しているって言うのに。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ。」
「客人を連れてきた。母さんと父さんは?」
「お部屋におられます。千紘様、暑い中よくお越しくださいました。今冷たいお飲み物をご用意致します。お部屋でお待ちくださいませ。」
「は、はいっ!」
俺の名前、何で知ってるんだ!そう思って偉成を見るとふんわり笑ってる。いや、笑ってないで助けてくれ。
「母さん達は部屋にいるらしい。早速移動しよう。こっちだ。」
「ま、待って······」
「ん?どうした。」
「足が、竦んじゃって······。」
上手く歩けない。それくらい足が震えて腰が引ける。
「手を」
「え······」
「手を貸せ。ほら、一緒に歩くから。」
偉成が俺の手を取って優しく握る。同じペースで歩いてくれるおかげで、さっきより安心できた。
「千紘、いつものまま、可愛い笑顔のまま、俺の隣に座っていたらいいから。」
「······そ、そんなこと言われたって······笑顔も緊張で引き攣るかも。変な顔になるかもよ?」
「それはそれで俺が見てみたいな。今笑ってみろ。」
「やだよぉ······。ていうか部屋はどこ······?広すぎて意味がわからない。」
廊下も広くて本当困惑する。偉成はこんな所で育ったのか。
「ここだ。ほら、入るぞ。」
「えっ、ぁ······!」
偉成がドアをノックして開ける。中は豪華な造りで、偉成の手に引かれてそこに足を踏み入れる。
「偉成、お帰りなさい。千紘さんもいらっしゃい。」
「お帰り。千紘君、いらっしゃい。」
穏やかな表情をしている偉成のご両親。俺は咄嗟に偉成の手を離して深く頭を下げた。
「お邪魔しています。松舞千紘です。本日はありがとうございます!」
日本語、間違ってなかっただろうか。ちゃんとご両親に届いただろうか。
心臓の音だけが大きく聞こえてくる。
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