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第175話

「ふふっ、可愛らしい方ね。そんなに緊張しないで。ほら、どうぞそこに座って。」 「偉成の運命の番は素敵な人じゃないか。こんなに可愛らしい。お母さん、俺は賛成だぞ!話し合いなんて必要ない!俺も惚れるほど綺麗だ!」 「何言ってるんですか。そこは格好つけて話を聞くものです。全てをペラペラ言ってしまうなんて······。千紘さん、聞かなかったことにしてくださる?この人は思ったことを全て言ってしまう人で······。」 あれ、思っていたイメージと違う。 もっと厳しくて怖い感じだと思ってたのに、ほんわかしてる。 「母さん······母さんも話しすぎだよ。とにかく話は聞いて欲しい。俺と千紘の覚悟なんだ。」 「もちろん聞くわよ。ね、貴方。」 「ああ!ほら、そこに座って!」 ふかふかのソファーに座る。それと同時に飲み物とお菓子が運ばれてきた。 「千紘が運命の番だと確信をしたのは4月で、先月のテスト終わりに契約を結んだ。それはもちろん、お互いの同意の上で。」 「千紘君、それは本当かな?」 「は、はい!」 声が裏返った。恥ずかしい。 偉成は小さく笑って俺の背中を撫でた。 「千紘の家族にも挨拶に行ってきた。好きなようにすればいいって言われた。」 「······千紘君。君のご両親は君を大切にしてくれてるのかな?」 そう言われてドキッとした。 なんて答えようか悩んで、俯く。 「······母からは、大切にされていると思います。父からは······きっと、邪魔に思われています。」 「それは何故?」 「······俺が、オメガだからです。」 膝の上に乗せていた手に力が入る。俺だって好きでオメガに生まれたわけじゃない。 「······成程。······偉成、私達はお前が千紘君と一生を共にすることは認めるし、賛成する。だが千紘君が千紘君のお父さんにそう思われたままなのは気に食わない。まずはそれをどうにかするべきだと思うが、どうだ?」 そう聞かれて偉成は大きく頷いた。けれど人の価値観を変えるのは難しい。それをどうにかしろって言われたって出来ないかもしれない。 「お、俺の事はいいんです!もう······辛くなるだけなので、何もしなくていいんです。」 「······千紘」 「千紘君。この世の中で逃げてもいい事は山程ある。けれど君のお父さんはたった1人しかいないんだ。本当に君がいいと言うならもう何も言わない。······納得はされなくても、せめて理解をしてほしくないかい?」 視界が滲んだ。 そんなこと言われるなんて思ってもみなかった。

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