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第188話
「優生、それじゃダメだと思う。傷つかないんじゃなくて、傷ついた事に気付かないようにしているだけだよ。」
「······そう、かな?僕、本当に何も思わないよ······?」
「人は自分の痛みに気づけたら、他人に優しくなれる。俺はそう思う。」
そう言うと優生がゆっくりと箸を置いた。何かを言いたげに俺を見るから、俺も箸を置いて優生を見る。
「僕はオメガだから、他人に傷付けられても文句は言えないし、他人に優しくしたところで同じ愛情はもらえないよ。」
「そんな事ないだろ。俺は優生や千紘がオメガでも、関係なく接してる。何か悪いことをされていたら助けたいと思うし、優しくされたら俺も同じだけ優しくしようと思う。」
「······そんなの匡君だけだよ。他の人は違う。僕のお兄ちゃんを見たでしょ?世間の人はそういう人達なの。みんながみんな匡君のような人じゃない。」
優生の目がだんだんと潤んでいく。
千紘ならこんな時どうするんだろう。もっと優しく言葉をかけるんだろうか、それとも放置するか?答えはわからないから、とにかく俺の思うように言葉を伝えるしかない。
「······そうかもな。でもだからって、お前も全員が全員こうだって思い込むのはダメだと思うぞ。」
「······そうだね。」
納得のいっていない様子。そりゃあそうか。アルファとして生きている俺に何を言われたって優生は困惑するだけだ。
「悪い、ほら、食べよう。」
「······ううん。」
静かな食事。
いつもの1人の食事より明るいものになると思ったのに、そんなに変わらなかった。
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