191 / 876
第191話
パウンドケーキに晩御飯まで作り終わった。
それと同じ頃に偉成が帰ってきて、着ていたスーツのジャケットを脱いだ。
「千紘ぉ······」
「お帰りなさい。」
力なく抱きついてきた偉成を抱きとめて、背中を撫でる。
「ちょっと疲れた。キスしてくれ。」
「キス好きだねぇ。」
ちゅ、と頬にキスをする。それから唇にキスをすると嬉しそうに笑う。
「今日は俺とお義母さんで晩御飯作ったんだよ!」
「そうなのか。楽しみだな。」
「ふふっ、そうでしょ?だから早く手洗って服を着替えて。まだご飯の時間は早いから少し休んでもいいけど······。」
チラッと偉成を見上げる。するとニヤリと笑って俺の顔を優しく両手で包んだ。
「寂しかったんだろ?素直に言え」
「······寂しかったけど、お義母さんと料理してたから我慢できたもん。」
「可愛くないな。」
「······嘘だよ。寂しかった。」
正直に言うと、偉成がくすくす笑って俺の頭を撫でる。
「素直で偉いな。よし、今から晩御飯までお互い触れ合ってようか。」
「触れ合う?エッチなことはしないでよ!」
「約束は出来ないな」
手を洗い、服を着替えた偉成は、俺を膝に乗せてソファーに座る。
「千紘」
「なぁに」
「今日は、実はお前の実家にまたお邪魔してきた。」
「えっ······」
優しかった空気がピリッとしたものに変わる。変わったのは俺のせいだけど、いやいや、やっぱり違う、偉成のせいだ。
「何で······っ」
「父さんも言ってただろ?千紘のお義父さんにしっかりと話をしないと。」
「でもそんな、勝手に······!」
「千紘に行くって言えば反対するだろうから、黙って行った。悪い。」
先に謝られちゃ怒れない。
唇を噛んで「勝手なことしないで」と呟くように伝えると「悪い。」ともう1度謝られる。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!