203 / 876

第203話 偉成side

「行ってきます。」 「······いってらっしゃい。」 不機嫌そうな表情をする千紘に見送られながら家を出る。 もう少しで夏休みが終わる。俺はそれまでに千紘の父親に千紘という人間を理解をしてもらわなければならない。 今日も千紘の実家に足を運ぶ。 お義母さんとは仲良くなれた。 「千紘は元気?······あらやだ、私いつもこれ聞いてるわよね。ごめんなさいね。」 「いえ······千紘君は元気です。今母と一緒に料理の勉強をしているようです。」 「料理の?あの子そんなの初めてするでしょうね······。家では手伝ってくれていたんだけど、なんせ不器用で······。」 お義父さんが仕事から帰ってくるまでは、こうして和やかな雰囲気で過ごす。 「千紘君は頑張ってくれています。寮に戻ると俺と2人で過ごすので、その時の為にって。俺は生徒会があるので帰るのが遅くなる時もあって。」 「生徒会かぁ。大変ね。しかも会長なんでしょう?」 「大変ですけど、やりがいはありますよ。それに帰ってきて、おかえりって言われると今日も頑張ってよかったって思えます。」 殆ど惚気話だ。それもうんうんと聞いてくれるお義母さんは、嬉しそうな表情をしている。 「偉成君のご実家は?お母さん達は何て言っているの?」 「俺の母も父も、千紘君のことに関しては賛成してくれています。ただ、千紘君のお父さんにはきちんと理解してもらわないと、と。」 そう伝えると、お義母さんは少し寂しそうな表情になった。 「あの人は性別にコンプレックスを抱いてるの。会社では出来るアルファに扱き使われるって。だから少しでもベータでも出来るんだって姿を見せたくて、意地になってるの。」 「はい。確かにそう思っているベータやオメガの方は多いと思います。」 「貴方はアルファだから、その気持ちはわからないでしょう?だから、余計に理解したくないって思ってるんだと思う。今まであの人と話してそれはもう分かっているでしょう?」 それはわかっている。 でもそれで諦めるわけがない。俺が千紘と結ばれるためには、お義父さんとしっかりと話す他ない。 どれだけ時間がかかっても、理解してもらわないと千紘の中でもずっとモヤモヤが残るだろうから。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!