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第206話
なんだか変な光景だ。
俺は偉成に背中を摩られ、父さんは母さんに同じように背中を摩られている。
「偉成君、よかったら貴方の御両親に挨拶をしたいんだけど······」
「はい。直ぐに呼んできます。千紘はここで待っていてくれ。」
「あ······うん。わかった。」
偉成が部屋から出ていく。俺はちょっと緊張して、母さん達を盗み見た。なのにバチっと父さんと目が合ってしまって、そのまま逸らせない。
「あの······何だ。千紘」
「は、はい······」
父さんに話しかけられて余計に緊張が増した。
「偉成君は······いい男だな。彼が運命の番でよかったな。」
「っ!う、うん!」
「もし彼と喧嘩でもしたなら、家に帰ってきてもいいからな。」
ああ、どうしよう。すごく嬉しい。
また視界が滲んできて、父さんが苦笑した。
「男がそんなに泣いてばかりでどうする。番になったということは、偉成君に何かがあったら、お前が支えないといけないんだぞ。もっと強くなれ。」
「偉成は優しいから、そんな風に言わないもん。」
「言わないだけだ。きっと誰よりもお前に全てをわかって欲しいと思っているはずだ。力になれるくらいに頑張るんだ。」
「······そう、だよね。」
誰よりも偉成の味方にならないといけない。そんな俺がこんなに弱いだなんて······全く笑えない。
「失礼します。両親を連れてきました。」
ドアがノックされて、開く。
慌てて目元を拭って、偉成達が入ってくるのを見た。
「初めまして。遠い中ようこそお越しくださいました。偉成の母です。」
「父です。」
お義母さんとお義父さんが綺麗な笑顔でそう言って、父さんと母さんと握手をする。
「さあ、今日はご飯を食べて行ってください。用意させました。なんならこのまま泊まっていただいても······」
「そんな!大丈夫です!」
母さんが慌ててお義母さんにそう言う。でもご飯は食べて帰るということになって、食事をしながらお話をすることになった。
「き、急すぎて、よくわからないよ······」
「大丈夫だ。千紘は笑っていればいい。」
「そういう問題じゃなくて!」
偉成は人と少し変わった感性をしてると思う。
俺の思っていることが真っ直ぐに伝わらない。それでも今は悪い方にはいかないからいいか、と諦めて偉成の後に続いて食事をする部屋まで移動した。
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