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第221話
「な、なに、どうしたのっ!」
胸を叩かれて唇を離す。
「······ごめん」
「何かあったの?すごく不安そうな顔してる。」
顔を両手で包まれる。
じっと目を見られて「大丈夫?」と聞かれたが返事ができない。千紘の背中に手を回して、甘えるように千紘の肩に額をつけた。
「偉成······?」
「······俺は、自分で選んだつもりなんだ。」
「え、何を······?」
それが、いつの間にか他の力に選ばれていたのか?
「偉成、おかしいよ。ちょっと休んで」
「千紘の事、自分自身で選んだつもりなんだっ!」
さっきまでの自信がぼろぼろと崩れていく。
涙が零れ、頬に伝う。
「いっ、せい······?」
「千紘······俺は、お前を愛してて、お前が欲しくて仕方がなかった。だから番になったんだ。」
「うん······」
千紘の温かい手が背中を撫でる。
他人の言葉なんて無視すればいい。俺が大切にするべき言葉は千紘のものだけでいいと思うのに、ざわつきが止まらない。
「大丈夫だよ。偉成が俺を選んでくれて、俺が偉成を選んだんだよ。」
「······ああ」
「誰に何言われたのかはわからないけど、俺の声だけ聞いて。俺が言っていることは嘘じゃないよ。······ねえ、顔見せて。」
そう言われて顔を上げる。泣き顔を見られるなんて恥ずかしいけれど、千紘にならまあいいか、と思う。
「泣いてるの?そんなに不安だったの?」
「······不安だ。今もまだ······」
「どうしたら不安じゃなくなるかな······。あ、偉成のすごい所言おうか?」
「いや······恥ずかしいからやめてくれ。······でも、しばらくこうしてて欲しい。」
千紘を抱きしめて、そのまま動かない。
体温を感じるだけで心は落ち着いていく。不安はまだ薄れないけど、少し冷静になりたい。
「偉成、好きだよ。」
「······っ、ありがとう······」
また涙が頬を零れていった。
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