230 / 876
第230話 偉成side
ああ、忙しい。
目が回る様な忙しさに、倒れてしまいたいとすら思う。
「偉成、あとはこれ。」
「ああ」
「疲れてるな。そりゃあ流石にこれだけ作業していたら疲れるか。」
誉が苦笑を零す。
文化祭のことでやることが山ほどあった。サインを書く仕事ももう二度とやりたくない。
「千紘は?」
「匡と一緒に暗幕を使うクラスの確認に行ってる。」
「暗幕······お化け屋敷でもするのか?」
「ああ。リスト見てないのか?」
出店リストなんて興味無い。
千紘のクラスが何をするのかは気になるけれど、それは1番初めに確認済みだ。
「興味なかった。お化け屋敷なら怪我人がでなければいいけどな」
「毎年どこかの1つのクラスはしてるぞ。それでも今のところ怪我人は出ていないみたいだし、今年も大丈夫だろ。」
「ならいいが······。」
最後に渡されたプリントを確認してサインを書きハンコを押した。
よし、今日の仕事はこれで終わりだ。
「千紘と匡はまだか」
「もう戻ってくると思う」
誉がそう言うと同時に部屋のドアが開いた。ばっと勢いよくそっちを向くと、千紘達じゃなくて外に出ていた東條でガッカリする。
「おい、なんだその顔。松舞じゃなくて悪かったな!」
「許してやれ、疲れてるんだ。」
「俺だって高良の相手に疲れた。」
東條がドサッとソファーに座る。
東條と一緒に出ていたはずの高良はいない。
「高良はどうした。」
「オメガ見つけて捕まえてる。早く番を作らないとってな」
「何を焦ってるんだあいつは······」
呆れて溜息が漏れる。
疲れきって机に伏せると、また部屋のドアが開き今度こそ千紘が戻ってきた。
「高梨先輩!確認終わりました!」
「ああ、ありがとう。」
「千紘!まずは俺にただいまって言うべきだ!」
「え······なんか面倒臭いモードに入ってる?ただいま。」
心底甘えたい気分だ。
そんな恥ずかしいことは口が裂けても言えないから、気持ちが伝わるようにとジーッと千紘を見る。
「······そんなに見ても何もしないよ。」
「······抱きしめるくらいしてくれたっていいだろ。」
「帰ってからね。」
冷たくあしらわれて、少し寂しい。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!