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第230話 偉成side

ああ、忙しい。 目が回る様な忙しさに、倒れてしまいたいとすら思う。 「偉成、あとはこれ。」 「ああ」 「疲れてるな。そりゃあ流石にこれだけ作業していたら疲れるか。」 誉が苦笑を零す。 文化祭のことでやることが山ほどあった。サインを書く仕事ももう二度とやりたくない。 「千紘は?」 「匡と一緒に暗幕を使うクラスの確認に行ってる。」 「暗幕······お化け屋敷でもするのか?」 「ああ。リスト見てないのか?」 出店リストなんて興味無い。 千紘のクラスが何をするのかは気になるけれど、それは1番初めに確認済みだ。 「興味なかった。お化け屋敷なら怪我人がでなければいいけどな」 「毎年どこかの1つのクラスはしてるぞ。それでも今のところ怪我人は出ていないみたいだし、今年も大丈夫だろ。」 「ならいいが······。」 最後に渡されたプリントを確認してサインを書きハンコを押した。 よし、今日の仕事はこれで終わりだ。 「千紘と匡はまだか」 「もう戻ってくると思う」 誉がそう言うと同時に部屋のドアが開いた。ばっと勢いよくそっちを向くと、千紘達じゃなくて外に出ていた東條でガッカリする。 「おい、なんだその顔。松舞じゃなくて悪かったな!」 「許してやれ、疲れてるんだ。」 「俺だって高良の相手に疲れた。」 東條がドサッとソファーに座る。 東條と一緒に出ていたはずの高良はいない。 「高良はどうした。」 「オメガ見つけて捕まえてる。早く番を作らないとってな」 「何を焦ってるんだあいつは······」 呆れて溜息が漏れる。 疲れきって机に伏せると、また部屋のドアが開き今度こそ千紘が戻ってきた。 「高梨先輩!確認終わりました!」 「ああ、ありがとう。」 「千紘!まずは俺にただいまって言うべきだ!」 「え······なんか面倒臭いモードに入ってる?ただいま。」 心底甘えたい気分だ。 そんな恥ずかしいことは口が裂けても言えないから、気持ちが伝わるようにとジーッと千紘を見る。 「······そんなに見ても何もしないよ。」 「······抱きしめるくらいしてくれたっていいだろ。」 「帰ってからね。」 冷たくあしらわれて、少し寂しい。

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