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第256話
パスタとオムライスが運ばれてきて、偉成がパスタを小皿に分けてくれた。俺はオムライスをスプーンですくい、そのまま偉成の口元に持っていく。
「あーん」
「っ!いいのか!」
「うん。今日もありがとうね。」
「······幸せだな」
そう言って口を開けた偉成。食べさせてあげると優しい匂いがより一層深くなった気がした。
「うん、美味しい。」
「よかった。俺もパスタ食べよ」
フォークにくるくるとパスタを巻き付けて、パクッと食べると、優しい味が口の中で広がって頬が蕩けちゃうくらいに美味しい。
「美味しい!」
「もっと食べるか?」
「えっと······じゃあね、半分こしよ。オムライスも······」
「いいぞ」
偉成はどこまでも俺に甘い。俺もそれをわかってて甘えちゃう。きっと狡い人間なんだろうな。
「千紘?どうした、何に落ち込んだんだ?」
「えっ!?」
「匂いが変わったから······。そんなにパスタが食べたいのか?」
「ううん、違うの。ちょっと俺······偉成に甘えすぎだなぁって思って。」
正直に話すと偉成がぽかんと口を開ける。何だろう、その間抜けな顔は。
「どこが甘えすぎなんだ······。むしろもっと甘えてくれていいんだぞ。千紘は辛いことがあっても我慢するだろう。本当はそういうのも包み隠さず話して欲しいし、力になりたい。」
「······我慢してるかな?」
「してる。俺にはわかる。」
わかるって言われても······と苦笑を零すと、偉星は相変わらず俺を優しい目で見て、小さく微笑む。
「千紘の笑ってる顔が見ていたい。安心してる優しい匂いを感じてたい。」
「············」
「マイナスに考えるのはやめよう。俺もそうすることにしたんだ。だから高良に言われたことも今は妬み嫉みだと思ってるぞ。」
「あはは、そうなんだ。偉成がそう思えるようになってよかった。気持ちが楽になったでしょ?」
「ああ」
ずっと悩んでたのを知ってる。
俺を選んだのは偉成自身なのに、運命のせいだなんて言われちゃったから。
正直俺もちょっと気にしてたけど、それより偉成が弱っているのが目に見えてわかったから心配だったんだ。
「冷めちゃうね、早く食べよ。」
まあそんなこと偉成に伝えるつもりはないけれど。
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