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第260話

「発情期でないなら妊娠する確率はとても低いです。」 病院について急いでお医者さんに見てもらうとそう言われて安心した。 でも一応薬をくれるらしい。 「発情期の場合だと100パーセント妊娠します。まだ妊娠したくないなら、今回のような事は避けるように。」 「はい、ありがとうございます。」 安心して体から力が抜けた。そんな俺を支えて待合室まで連れて行ってくれる偉成。 「これからは気を付けようね」 「ああ、悪かった。」 「ううん、俺も気づけなかったし······」 本気で焦った。疲れて偉成に凭れる。 優しく頭を撫でられて、「本当に悪かった」と言われると、何だか俺の方まで申し訳ない気持ちになってきた。 「偉成との子供が欲しくないわけじゃないよ。」 「わかってる。今は学生だからな、千紘が卒業してからだ。そうだろ?」 「うん」 わかってくれていて安心した。 偉成の肩に顔を埋める。 「偉成のこと、愛してるよ。」 「ああ、俺も愛してるよ。」 その時名前を呼ばれて偉成がお会計をしてくれる。薬も貰って安心して寮に戻った。 「薬は決まった時間に飲むんだと。今飲むなら、明日もこの時間に飲む。」 「わかった」 薬を渡されて早速飲んだ。 お腹を撫でて溜息を吐く。 「妊娠する可能性は低いんだよね」 「ああ。きっと大丈夫だ。」 「······そうだね」 大丈夫なことはわかってる。薬を飲めばきっと確実なのも。 「そんなに不安なのか?」 「······うん、何でだろう。大丈夫なのは分かってるんだけど」 「······こんな言い方は良くないかもしれないが、千紘はオメガだ。元々本能で子供を産もうと思ってる。今は子供ができることに不安を感じてるんじゃなくて、子供が作れないことが不満なんじゃないか?」 そう言われてハッとする。 確かに、お医者さんに言われて妊娠の確率も低いって言われた。それなのにモヤモヤした気持ちが消えないのは、俺の中に子供を望んでいた気持ちがあるからだ。 「······何か、胸が痛い。」 「泣くな」 偉成にそう言われて初めて自分が泣いていたことに気付く。偉成に抱きしめられて、その腕の中で泣く。 「千紘が卒業するまでだ。」 「······まだずっと遠いよぉ」 「それでもだ。一緒に待とう」 偉成の俺を抱きしめる力が強くなる。 顔を上げるとキスされて、次第に気持ちが落ち着いていった。

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