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第262話
「あとこんな所で寝てたら風邪引くよ。」
「······首輪してる。」
「······そりゃあ、オメガやからね。」
苦笑した旭陽さんは「そこ退いて」と言ってきて、俺はベンチの端に寄る。
隣に座って本を読みだした旭陽さんの首輪に手を伸ばす。
「何?」
「······恋人いないの?」
「"いないんですか"やろ。······おらんよ。」
「何で?」
続けて質問すると、呆れたように本から視線を俺に移した旭陽さん。可愛らしい猫目。瞳の色は髪の色と同じで、焦げた茶色。
「敬語使われへんの?······まあもうええわ。」
「ねえ、何で?」
「何でって言われてもなぁ。機会が無かったってだけちゃう?やけどこの学校に入った意味なくなるよなぁ。もう少しで卒業やもん。」
本をタンっと閉じた旭陽さんは、首輪に伸ばしていた俺の手を掴んで、俺の目をじっと見る。
「なあ、俺のこと恋人にしやん?」
「は?」
「やって就職先欲しいもん。俺の事今は好きやなくてええから、そのうち好きになっていってもらうから、あかんかな?」
何だこの人。変な人だけど、退屈はしなさそうだな。
「俺とキスしたりセックスしたりできる?」
「······俺、キスも······せ、セックスも、した事ない。」
「え、嘘。発情期はどうしてきたの?」
「抑制剤飲んで······なんとか」
わあ、なんて可愛い人なんだ。
今だって顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言いながら、膝の上で作った拳をキュッと握っている。
「キスもした事ないなんて可愛い」
「ばっ!馬鹿にしたな!」
「してないよ」
立ち上がって俺を見下ろした旭陽さんの腕を掴み引っ張る。バランスを崩した旭陽さんは俺に覆いかぶさるようになってベンチの背もたれに手を着く。
至近距離で目が合って、逃げられないように旭陽さんの腰に腕を回す。
「キスしてみて」
「なっ······!」
「そしたら恋人にしてあげる。」
そう言うと真っ赤な顔のまま視線をキョロキョロさせて、震える唇を俺に近付ける。
「あ······め、目閉じて」
「うん」
そっと目を閉じる。するとすぐに唇に柔らかい感触がした。
静かに目を開けるとギュッと目を瞑る旭陽さんが目の前にいて可愛かった。
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