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第264話

*** 「楠本旭陽って知ってますか?」 「旭陽?旭陽ならうちのクラスだよ。あ、ほら」 次の日、普段なら月曜日で乗り気じゃない学校も旭陽のおかげで少し楽しみだった。 昼休みになって3年生のクラスを回っていると、旭陽をやっと見つけて「旭陽ー!」と声を掛けてみる。 「えっ······」 「旭陽!連絡先聞くの忘れてた!」 「······大きな声出さんで」 旭陽が廊下まで出てきてくれて、連絡先を交換する。 「キスしていい?」 「あかん」 「恋人なのに?」 「今はあかんの」 顎を下から押しあげられてキスできない。まあ、旭陽の方が先輩だしプライドってものがあるんだろう。それを俺が傷つけちゃダメだ。 「ねえ学校終わったら遊びに行こう?」 「生徒会あるやろ」 「今は暇な時期だからいいんだよ」 「もし俺が生徒会長やったらお前のこと嫌いになりそう」 「恋人に言う言葉じゃないね」 手を退けさせて、はっと旭陽に隙ができたから触れるだけのキスをすると、また顔を真っ赤にして口元を覆うから可愛い。 「あかんって言うたっ!」 「したかったから」 「次したら二度としやんからな!はよ教室帰り!」 どんっと胸を押されて、よろけている内に旭陽は教室に入ってしまった。 仕方ない。 スマートフォンに新しく増えた連絡先。 もう一度遊びに行こうと言ってみよう。 「高良、お前飯食わねえの?」 「食べるよ」 教室に戻ると友達にそう言われて、席に着いて買っていたパンを齧りながらスマートフォンを操作して旭陽にメッセージを送る。 するとすぐに返事が来た。 「いいよって······ふふっ、さっきは嫌そうにしてたくせに。」 これがツンデレってやつなのだろうか。 もう少しで午後の授業が始まる。 けれど俺の頭の中には、旭陽とどこに行こうかということしかなかった。

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