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第266話

「そう言えば誰かとこうやって出かけんの久しぶりやなぁ」 「そうなの?」 クレープを食べ終わり、街中を目的もなく歩く。 「うん。高校入ってから初めてかも」 「え?嘘でしょ?」 「ほんま。」 嘘をついている様子はない。 本当に初めてなのか。 「何で?」 「友達おらんからなぁ。ほら、俺オメガやん?」 「そうだね。避けられてるの?」 「うん」 ちょっと寂しそうな声音。俺よりも小さい手を取ると驚いたように顔を上げる。 「俺はいつでも付き合うからね」 「······別に1人の方が楽やからええねんけど」 「そんな事言わないで。」 背中を屈めてキスをすると、握っていた旭陽の手に力が入る。 「恋人でしょ?さっきも言ったけど甘えてよ」 「······そ、外でこういうことはあかんっ」 「あかんの?」 旭陽の言葉を真似して繰り返すと、空いていた手が俺の口元を覆う。 「なんかお前万年発情期の犬みたい」 「んんっ!?」 すごく馬鹿にされたような気がするけど、旭陽だから許してあげよう。 手が離れて、俺を見上げる旭陽は少し困ったような表情をしていた。 「俺な、言うた通り友達もおらんし、恋人やっておったことないから、今何したらいいかわからん。手を握り返したらええの?キスされて嬉しいって喜んだらええの?」 「旭陽の好きなようにすればいいんだよ。」 「······じゃあ、握り返しとく。」 きゅっと手を握られて、それに凄くときめいた。胸がキュンっとして、抱き締めたい。 「抱き締めていい?」 「外やからあかん」 「でも俺達外でしか会えないんだよ?寮には入れないし······」 「······い、一瞬だけ······」 お許しをもらって旭陽をぎゅっと抱きしめる。本当に華奢だなぁ。小さくて細くて、守ってあげたいという気持ちが増えていく。 「もうあかんっ!」 「えー、何で。」 「一瞬て言うた!」 「やだやだ、もうちょっと」 頭を撫でると大人しくなった。 少しして体を離す。 「次どこ行こっか」 「······知らん」 「怒ったの?」 「怒ってない」 ただ恥ずかしいだけか。 素直に自分の気持ちを話すのが苦手らしい。何で俺はこんなに可愛い人を2年間も見つけられていなかったのだろうか。 「夜ご飯食べて行こうか」 「······うん」 ──決めた。 次の旭陽の発情期に、絶対に俺の番にしてやる。

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