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第270話

「そんなの嫌だよ。旭陽と一緒にいたいよぉ」 「うるさ」 撫でるのをやめたら顔を上げて、突然キスされた。 なんか、触れるだけのキスはもう慣れたかも。急に何回もやってくるし、緊張してたら逆にもうもたん気がする。 「お願い」 「······中途半端に投げ出したくない」 「俺とのことは中途半端でもいいの?」 「う······っ」 そんなん言われたら······。いや、でも······。 「お願い。」 「······っ」 昨日考えたんやった。 愛想つかされへんように、少しくらい好きなことさせたらなって。 「わ、かった······」 「本当!?嬉しい!早速手続きをしよう!」 手を取られて、かと思えば強く抱きしめられる。ぐえって声が出そうになった。 「荷物運ばなあかん」 「それは家の手伝いにやらせるよ」 「そんなんあかんやろ。自分でやる」 「旭陽は寮長を誰かに代わってもらうので大変でしょ?そっちに集中してくれたらいいから」 また、ちゅって触れるだけのキスをされる。確かに、寮長を誰かに代わってもらうんやから、寮長の仕事のこともちゃんと伝えないとあかん。ていうか······誰かやってくれる人おるんかな。 「よし。頬はどう?そろそろ教室に行けそう?それとも今日行きたくないならこのまま寮に帰る?荷物取ってくるよ。」 「戻る。戻らんと負けた気がする」 「そっか。わかった。送るよ」 立ち上がると高良の手が腰に回る。 「本当、華奢で可愛いね。」 「······オメガの体馬鹿にしてんのか」 「してないよ。本当に可愛いって思っただけ」 可愛いなんか言われたって別に嬉しない。 その手を払って保健室から出る。 「手続きしておくね!」 「ん」 「楽しみだなぁ!」 俺の隣で小さくスキップをする高良。そんなに一緒に住むんが嬉しいんか。俺にはよくわからん。 「旭陽ぃ」 「おい、それ以上近づくな」 「なんでそんな事言うの。恋人でしょ?」 「お前にはパーソナルスペースが無いんか」 「無いよ」 就職先としてはトータルで見たらええんやろうけど、こいつ自身を見てるとほんま年下の馬鹿なやつとしか思わへん。 「好きだよ、旭陽。」 「あっそ」 俺は別に、そんなに。

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