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第271話
結局、引越しは次の土日に行った。
学校があるから平日は時間が無いし、寮長を代わってくれる人を見つけるのにも時間がかかったから。
「じゃあ······頼んだで。」
「はい!」
元々俺が寮長になったのはちょっとでも人を纏める役職についてたら、ここでの就職先は見つけられへんくても、外に出た時に少しでも有利になるかもしれへんって思ってたから。
でも、就職先を見つけた今は思ってたよりも簡単に捨てられる。
自分の荷物を持って、オメガの寮を出た。すると建物のすぐ傍に高良が居て、俺を見つけると嬉しそうに笑う。
「荷物持つよ!」
「いらん」
「重たいでしょ。」
いらんって言うたのに、荷物を奪うように持たれた。俺やって男やから、荷物を持つことくらい平気やのに。
「俺がお前のこと好きなオメガやったら、すぐに堕ちたやろうな。」
「何言ってんの?旭陽は俺の事好きなんだよ。じゃないと一緒に暮らしたりしないよ」
優しい笑顔を見せてくる高良に動揺する。
俺は就職先が欲しかっただけ。ほんまに、それだけ。付き合う時に話した筈やのに。
「でも旭陽は1つ間違ってる」
「は?何のこと?」
「付き合う時にさ、俺に旭陽のことそのうち好きになっていくって言ってたじゃん。」
「あー······言うたな。」
あんなんただの付き合うための苦し紛れの言葉。面接試験で受かるために何とか絞りだしただけ。
「そのうちじゃないんだよなぁ。旭陽に初めてキスされた時に可愛いなぁって思ったし、今思えば俺はあの瞬間にすぐに堕ちたんだと思う。」
「······それとこれと何が関係あるん?」
「ん?恋愛って誰かに言われたり、指図されてするもんじゃないんだなぁってこと。」
「······意味わからん」
やっぱ高良は馬鹿や。何の脈略もない恥ずかしい事を簡単に言葉にできる。
正直者とか素直って言えば聞こえはええけど、なんも考えてないだけなんかもしれん。
「はい、着いた。アルファの寮です。」
「······プライド高い人間が多そうやな」
「そんな事ないよ。どっちかって言うと旭陽の方がプライド高いんじゃない?」
「別にプライド高いわけちゃうと思うけど」
アルファの寮に入って、高良の部屋を目指す。
廊下がやけに広い。オメガの寮と広さが全然違う。
アルファばっかり優遇しやがって······と心の中で悪態をついた。
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