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第274話 千紘side

「ねえ、引越ししてるよ?あの部屋って······」 「高良だな」 休みの日、偉成とゴロゴロしていると部屋の外がうるさくなった。なんだろうと外を覗けば荷物を運び入れている部屋がある。 「高良先輩?何で?」 「さあ?あ······でも確か、オメガと一緒に住む手続きをしていたな。」 「えっ!高良先輩に恋人!?見たい!」 部屋を飛び出そうとすると、それより前に偉成に抱きしめられて、中に連れ戻される。 「今は忙しいだろうから、またな。」 「えー!」 「えーじゃない。ほら、そろそろおやつの時間だぞ。」 「ちょっと、子供扱いしないでよ。」 文句を言えば偉成がケラケラと笑う。 「でも食べたいだろ?マフィンを作った」 「えっ!食べたい!いつの間に作ってたの?」 「朝早く起きてな。」 「嬉しい!」 ソファーに移動して「待ってろ」と言われたから大人しくそこで待つ。 すぐに偉成がマフィンとカフェラテを作って持ってきてくれた。 「いい匂い」 「ラテアートしてみたぞ。どうだ。」 「可愛い!猫?」 「······犬だ。」 少しの沈黙が走ったけど、気にせずマフィンに齧り付く。 「んー!美味しい!」 「よかった」 「偉成も食べたら?ほら、あーん!」 俺の齧った反対側を偉成の口元に持っていくと、同じ様に食べた偉成が柔く笑う。 「うん、美味しいな。」 「ゴロゴロして美味しいおやつも食べて······最高の休日だねぇ。」 「そうだな。幸せだ」 頬にキスされて擽ったい。 「千紘」 「んー?」 カフェラテを飲んで、マグカップをテーブルに置く。振り返ると今度は唇にキスされた。 「もう少しで進級だな。」 「何言ってるの、まだ半年くらいあるよ。」 「早いな」 「俺は早くて嬉しい。さっさと卒業して偉成と一緒に暮らしてね、子供作って幸せな家庭を築くの。」 夢を語ると偉成も俺と同じことを考えていてくれてるのか「そうだな。」と言って俺の手を取る。 「でもな、千紘。」 「え?」 急に偉成が真顔になった。それが怖くて軽く身を引く。 「来月は期末試験だぞ」 「······なんだよぉ、そんなこと!?」 「一大事だ。それが終われば今年が終わる」 「真顔で話すことじゃないってば」 俺の夢の事を少しでも否定されるのかと思った。 安心して、またマグカップを手に取り、カフェラテを飲んだ。

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