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第276話

結局ギリギリ間に合った学校。 授業を受けて、匡と優生君と話をして、1日が終わる。 生徒会に少しだけ顔を出して、偉成より先に寮に戻った。 「あ、寮長!」 「え······ぁ、松舞······」 高良先輩の部屋の前でドアを開けようとしていた寮長に声をかける。 「学校間に合いました?」 「ああ······まあ、なんとか。」 「よかったです。それより、高良先輩と知り合いだったんですね。」 「ううん。オメガの寮の近くのベンチで高良が寝とって、それで知り合った。ほんまに最近の話」 ドアから手を離した寮長が俺に体ごと向ける。 「松舞は?生徒会長の番なんやろ?体育祭見てたけどラブラブやね。」 「そうなんです。ふふっ」 「幸せそうやね。羨ましい」 「何で?寮長も高良先輩に愛されてるんでしょう?」 そう言うと寮長が苦い顔をする。 どうしたんだろう。何か、悩んでることがあるのだろうか。 「寮長?」 「······俺の名前は楠本旭陽。寮長ちゃうよ」 「あ、ごめんなさい。楠本先輩」 「旭陽でいいよ。部屋がこんなに近いからこれから頻繁に会うやろうし。」 「じゃあ、旭陽先輩!」 旭陽先輩の名前を呼べば小さく笑ってくれた。 「俺は千紘って呼ぶ。ええやろ?」 「はい!」 先輩の話す言葉は俺にとっては珍しいイントネーションで楽しい。だからか、言葉が全て柔らかく聞こえる。 「なあ、千紘は何で生徒会長と番になったん?いい就職先やから?」 「あー······えっと、俺と偉成は運命の番で······」 「は?運命の番?あれって都市伝説かなんかやろ?」 眉を顰めた先輩に苦笑を零す。 俺だって偉成と出会うまでは、本当に運命の番なんてものがあるとは思ってなかったから。 「本当なんです。それで偉成を選んだ。」 「······そう、なんや。」 「先輩は?」 「俺、は······」 先輩が黙って俯いてしまった。どうしたんだろう?具合が悪いのかもしれない。 「先輩、もしかして体調悪い?」 「え······ぁ、ううん、大丈夫。ごめん」 「いえ······しんどいならすぐに休んでくださいね。高良先輩呼びましょうか?」 「いい!大丈夫やから!ごめんね!」 そう言ってドアを開け部屋に入って行く。 ドアが閉まる前に見えた先輩の表情は、少し暗かった。

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