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第277話

「ただいま」 「おかえり」 夜ご飯の支度をしていると偉成が帰ってきた。 今は忙しい時期じゃないから、俺は生徒会をそんなに手伝わなくていいんだけど、偉成はやる事があるらしい。 返事をしながら手を動かす。 ぐつぐつと音を立てる白いそれ。火を止めてお皿を用意する。 「今日はシチューか?」 「うん!」 偉成の腕が俺の腹に回る。背中から包まれるように抱きしめられて、偉成の匂いに安心する。 「千紘は何か悩み事か?」 「え······あぁ、匂いでわかる?」 「わかるよ。何があった?」 考えていたのは旭陽先輩の事。 最後に見た暗い表情が頭から離れない。 「旭陽先輩が······あ、高良先輩の恋人ね。」 「ああ、今朝見た······」 「うん。その先輩とさっき話した時に暗い表情をしてたから、何かあったのかなって。」 高良先輩を選んだ理由を聞いた途端に顔色が変わったように思う。 もしかして高良先輩······無理矢理ってこと、ないよね······? あんまり聞かない方が良かったのかな。明日謝った方がいいのかも。 「明日謝ろうと思う」 「気になるならそうした方がいいな」 偉成にそう言われて頷く。 「お腹空いた」 「あっ、ごめんね!すぐ用意するから!」 「いい。服着替えてくる」 最後に俺の頬にちゅっとキスをして、偉成が離れる。 俺は慌てて支度を済ませたのだった。

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