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第279話
「あはは、可愛い。本当に俺とするのが初めてなんだね。」
「······嘘なんか言わん。」
「そうみたいだね。」
ソファーまで運ばれて、頭を撫でられる。
「別に上手くなって欲しいとは思わないよ。今のまま、俺にされるがままの旭陽でいい。」
「そんなん嫌や。俺ばっかり意味わからんくなんのやろ?」
「キスしたらそうなっちゃうの?じゃあゆっくりキスしてみる?」
「やらん!」
ドンッと悠介の胸を押して距離を作った。
膝を抱えて、そこに顔を埋める。
俺、選ぶ人間違えたかも。
ていうか、俺にはこんなこと向いてない。
お婆ちゃん達を楽させてあげたいから、こんなんしてるだけ。気持ちはついてこない。
「旭陽?」
「······俺、お前のこと好きになれんのかな。」
正直に気持ちを零せば、悠介が俺の傍に寄って背中を撫でてきた。
「まだ出会って少ししか経ってないし、不安になるのはわかる。まあ俺は旭陽のこと好きだけどね。」
「何で?やって俺、なんもしてない。好きになってくれるようなこと、なんもしてないよ。」
「それでいいの。素の旭陽が好きだから。」
顔を上げて悠介を見る。
「いつか旭陽もそう思ってくれたらいいな。」
「······っ」
何で、そんなに優しいんやろう。
悠介は哀しいくらいに優しくて、阿呆な計画を立ててる自分が惨めになる。
「さーて、晩御飯食べに行こっか。そろそろお腹空かない?」
「······空いた」
「動けそう?」
「うん」
ソファーから立ち上がると悠介が俺の腰に手を添える。
「何この手」
「んー?何でもないよ」
「······邪魔やねんけど。」
「でも何かの拍子に旭陽が転けたら抱きとめられるでしょ?ほら、さっき腰抜けたばっかりだし。」
「うるさいっ!」
その手を叩き落とそうと振り返ると、足が縺れて転けそうになった。それを抱きとめられて、余計に恥ずかしくなる。
「ほら、言ったでしょ?」
「っ!」
「旭陽は元気だからね。」
「馬鹿にしてんの?」
「してないよ」
ぎゅっと抱きしめられて、それから腕が離れる。
食堂まで移動して、メニューを選んだ。
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