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第288話
「······牛タン好き」
「牛タン?」
「うん。肉の中で1番好き」
よし、明日の晩ご飯は牛タンで決まりだ。
いやいやそれは置いておいて。
「何で親がいないの?」
「······それ聞く?」
「うん。だって知りたい。」
じっと旭陽を見ると、困ったように笑った旭陽がクッションを抱き締めて俯く。
「離婚して、母さんに引き取られてんけど、母さんは病気で亡くなって、それで母さんのお婆ちゃん達に育ててもらった。」
「······そう」
「父さんは今何してるか知らんねんな。お婆ちゃんもお爺ちゃんも、父さんの話したら嫌がるから。」
俯いていた顔が俺を見た。
「聞きたかったことってそれ?」
「······まだある」
「うん、何?」
「何でこの学校に来たの?」
そう言うと、旭陽の顔色があからさまに変わった。
「旭陽?」
「······それ、は」
「うん」
クッションをギュッと強く掴む。
「俺······こんなん言うたら、軽蔑されるかもしらんけど······」
「何?」
「······いい就職先、見つける為。」
「そっか」
別に、軽蔑したりしない。
ここに入学したオメガの殆どの理由がそうだと思うから。
「お婆ちゃんとお爺ちゃんにいっぱい迷惑かけたから、楽させてあげたいねん。」
「別に、軽蔑しないよ。そういうオメガがここには多いから。」
そう言うと不安そうに俺と視線を合わせる。
何をそんなに怖がってるんだろう。
「それで、そこにいた俺を選んだんだね?」
「······うん。就職先欲しかったから。」
「それは初めに聞いた気がする。もしかしたら他の理由もあるのかなって、思ってたんだよね。」
「······ううん、それが全部。······怒った?」
そう聞いてくる旭陽をそっと抱き締めた。
「怒らないよ。怒るわけない」
「······悠介もオメガ探しとった?」
「うん。俺も親から色々言われてたしね。お互いそういう理由で出会って付き合ったにしても、今こうして居られるなら良いでしょ。」
旭陽が俺を好きでいてくれているのかはわからないけど、抱きしめることもキスも、セックスも拒否しないならある程度は認めてくれているんだと思ってもいいと思う。
「番になったしね」
「······なったねぇ」
「嫌だった?」
「ううん。初めからこうなりたかったから。」
例えば旭陽の計画していた通りに、上手い具合に俺が嵌ったのだとしても、それでいい。
そう思うくらいには、俺は旭陽に惹かれている。
「好きだよ」
「······ありがとう」
旭陽の手が背中に回る。
まだ、好きの返事は貰えなくても。
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