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第293話
僕も、もう家には帰らないつもり。
向こうが謝ってくれる迄、僕はなんのアクションもしないって決めた。
「まあ最悪、何かあれば兄貴に頼ればいい。」
「会長ね。会長とは仲直りしたんだよね。」
「ああ。」
ソファーに座って、匡君の肩に軽く頭を乗せる。
こうやって甘えるのももう慣れた。それに最近は匡君が僕に甘えてくれることもあるから嬉しい。
「匡君」
「何?」
俺の顔を覗き込む匡君に、ちゅっとキスをする。
「好き」
「······さっきも聞いたけど?」
ニヤッと笑った匡君が、僕をソファーに押し倒す。
「今日、久しぶりにいい?」
「うん。発情期以来してないもん。僕もそろそろ欲しい。」
匡君が覆いかぶさるように抱き着いてきて、その背中に手を回す。
あ、そういえば
「高良先輩、番できたんだね。」
「急に高良先輩の話かよ。······できたらしいな。千紘がはしゃいでた。」
「良かったよね。千紘君の事で会長と喧嘩することも無くなったんじゃない?」
「さあな」
僕の首に何度も唇で触れる。時折チクッとした心地良い痛みが走って、幸せが膨らんでいく。
「ねえ、擽ったいよ」
小さく笑いながら匡君の胸を押す。それでも離れてくれない。匡君は意外と甘えただから。
「こう出来てるのが嬉しい。」
「え?」
「今までいろいろあったけど、自分の選んだ人と番になれて、こうやって幸せを感じられてるのが嬉しい。」
素直に気持ちを吐露する。
それがやけに嬉しくて、顔を上げた匡君の頬を包んでキスをした。
主導権が匡君に移動して、熱い舌に口内を蹂躙され、息が苦しくなる。
「好きだ、優生。」
「ふふっ······それ、さっきも聞いたよ。」
「そうだったな」
穏やかな時間に包まれる。
いつだって、どこかのんびりとした時間の流れる僕達の間で、誰にも壊せない絆が作り上げられていく。
それを今、身をもって感じていた。
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