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第295話

旭陽を見送ってから、俺も支度を整えて家に向かった。 「ただいま」 家に帰るとお手伝いさんがやって来て、荷物を預かってくれる。 「お母様がお呼びです。」 別の人がやって来て俺にそう伝えてくる。頷いて母さんが居る部屋に移動した。 ドアをノックして返事が聞こえてから開けて入る。 ソファーに座り、紅茶を飲んでいる母さんが冷めたような目で俺を見ていた。 「おかえりなさい、悠介。」 「······ただいま」 旭陽には、嘘をついた。 怖くないって伝えたけれど、俺はこの人が怖い。 「座りなさい。話をしましょう」 「はい」 言われた通りに母さんの向かいのソファーに座る。 緊張する。何を言われるんだろう。 「学校の成績はまずまずと聞いてるわ。それはいいとして、番はどうなったの?ちゃんと見つかったの?」 「······はい」 「どうしてすぐに報告しないの?直ぐに連れてきなさい。貴方にふさわしい子か確かめるわ。」 「······いえ、どちらにせよもう契約をしたので、確かめて頂かなくて結構です。」 おおよそ親子のする会話じゃない。 「契約した?どうしてそんな勝手なことをするの?」 責めるような言葉。 俺がどんな子を選んだって関係ないだろ。 「もし妊娠できない子だったらどうするの?跡取りのアルファを産んでもらわないといけないの。ちゃんと健康な子じゃないと。」 「······妊娠できなくても関係ありません。俺はその子を愛してる。それだけで充分です。」 カタ、と母さんがティーカップを置いた。 背中に嫌な汗が伝う。 「もしその子が使えなかったら、番を解消しなさい。」 「そんな······!それは人殺しと同じです。」 「貴方が悪いのよ。兎に角この休みの間に連れてきなさい。いいわね?」 返事出来ずに俯く。 ああ、息苦しい。 今すぐ旭陽に会いたい。

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