296 / 876

第296話

自分の部屋に逃げ込んで、すぐさま旭陽に電話をした。 苛立った様子で「何?」と電話に出た旭陽。いつもと変わらない旭陽の様子に泣きそうになる。 「家、着いたの?」 「着いたけど、何?」 「······母さんに怒られちゃった。」 「······何で?俺との話でもした?認めへんって?」 旭陽の声音がだんだんと不安の色を増す。 「······気分、悪くさせたらごめん。」 「いいよ。教えて」 母さんと話した事を、包み隠さずに伝えた。 初めこそ相槌を打っていた旭陽も、次第に黙ってしまう。 「ごめん、ごめん旭陽。」 「······ううん、仕方ないよ。俺は大丈夫やから、悠介も思い詰めんといて。」 「旭陽に会いたいよ」 切ない。胸が苦しい。 旭陽がまだ、俺を好きじゃないのは知ってる。 自分だけ、契約した事を喜ばれない辛さに押し潰されそうになっている。 「俺が会いに行くまで待っといて」 「······来てくれるの?無理しなくていいよ。」 「約束は······できやんけど。」 「そう、だね。お婆さん達は元気?」 話を変えようと思ってそう話を切り出す。 すると、旭陽は言葉を詰まらせた。 「それが、知らん間にお爺ちゃんが倒れてたみたいで、これからお見舞い行くとこ。」 「え······」 「倒れた拍子に怪我もしてもうたらしくて、入院してるんやって。」 「そう······。それじゃあ本当に無理しないで。俺から母さんに伝えておくよ。気をつけてね。お爺さん、お大事にね。」 「ありがとう」 もう行くって旭陽が言うから、電話を切った。 切なさが心を蝕んでいく。 ベッドに倒れ込み、腕で目元を隠した。 この寂しさから、抜け出したい。 「······疲れた」 アルファとして生きるのも、苦しい。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!