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第296話
自分の部屋に逃げ込んで、すぐさま旭陽に電話をした。
苛立った様子で「何?」と電話に出た旭陽。いつもと変わらない旭陽の様子に泣きそうになる。
「家、着いたの?」
「着いたけど、何?」
「······母さんに怒られちゃった。」
「······何で?俺との話でもした?認めへんって?」
旭陽の声音がだんだんと不安の色を増す。
「······気分、悪くさせたらごめん。」
「いいよ。教えて」
母さんと話した事を、包み隠さずに伝えた。
初めこそ相槌を打っていた旭陽も、次第に黙ってしまう。
「ごめん、ごめん旭陽。」
「······ううん、仕方ないよ。俺は大丈夫やから、悠介も思い詰めんといて。」
「旭陽に会いたいよ」
切ない。胸が苦しい。
旭陽がまだ、俺を好きじゃないのは知ってる。
自分だけ、契約した事を喜ばれない辛さに押し潰されそうになっている。
「俺が会いに行くまで待っといて」
「······来てくれるの?無理しなくていいよ。」
「約束は······できやんけど。」
「そう、だね。お婆さん達は元気?」
話を変えようと思ってそう話を切り出す。
すると、旭陽は言葉を詰まらせた。
「それが、知らん間にお爺ちゃんが倒れてたみたいで、これからお見舞い行くとこ。」
「え······」
「倒れた拍子に怪我もしてもうたらしくて、入院してるんやって。」
「そう······。それじゃあ本当に無理しないで。俺から母さんに伝えておくよ。気をつけてね。お爺さん、お大事にね。」
「ありがとう」
もう行くって旭陽が言うから、電話を切った。
切なさが心を蝕んでいく。
ベッドに倒れ込み、腕で目元を隠した。
この寂しさから、抜け出したい。
「······疲れた」
アルファとして生きるのも、苦しい。
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