297 / 876
第297話 旭陽side
電話の切れたスマートフォンの画面をぼーっと眺める。
悠介、悲しそうな声してた。
初めて聞くような暗い声に、ほんまやったら今すぐ会いに行って抱きしめてあげるくらいするんやろうけど、俺にはそれが出来ない。
「旭陽、そろそろ出るよ」
「うん」
お婆ちゃんの声がして、玄関まで急ぐ。
靴を履いて、お婆ちゃんの持っていた荷物を代わりに持った。
「お爺ちゃん怪我したってどこ怪我したん?」
「足を捻ったのよ」
「あーあ、痛いね」
「でもね、それより倒れた事に驚いたわ。」
今は無事だから、お婆ちゃんはふふって上品に笑う。
「それより、何かあったの?」
「え?」
「お友達から電話だったんでしょう?不安そうな顔をしてるから、何かあったんじゃないの?」
「あ······ううん、大丈夫。」
首を振って何でもない風を繕った。
多分、あいつも大丈夫。
何とか自分で気持ちを整理することは出来ると思うから。
「ほら、行こ。お爺ちゃん待ってるで」
「そうだね」
気にしたって、今はどうせ会いに行かれへん。
それなら気にしやんほうがいい。
「お爺ちゃん喜ぶわよ、旭陽が来てくれたって。」
「俺も久しぶりにお爺ちゃんに会えるの嬉しい」
病院までは少し遠い。
大通りまで歩いて、タクシーを拾う。
「旭陽」
「何?」
「旭陽には大切な人ができたのね」
「はっ!?」
驚いてお婆ちゃんを凝視する。
お婆ちゃんはのほほんと笑っているだけで、動揺したりしない。
「雰囲気が柔らかくなった気がするわ。相手はどんな人?」
「な、なっ!ちゃう!」
「あら、違うの?でももう首輪をつけてないじゃない」
そう言われると抗えなくなって、体を小さく丸める。
「恋人は、できた······。」
「あらぁ、素敵ねぇ。どんな人なの?今度お家に連れてきて。お婆ちゃんが美味しいご飯沢山作るからね。」
「うん······。」
まだ、好きにはなれてないけど、きっともうすぐその気持ちが芽生えるはず。
そうなったら、お婆ちゃんとお爺ちゃんに悠介を紹介しよう。
そう思いながら、今頃1人で戦ってる悠介のことをぼんやりと考えていた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!