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第298話

お爺ちゃんは思ってたより元気やった。 俺を見て嬉しさでベッドから飛び上がるくらいには。 少し話をして、お爺ちゃんが眠くなった頃に帰ることになって、またタクシーに乗って家まで戻る。 家に着いて、お風呂を洗い洗濯物を取り込んで畳む。 「旭陽はもう少しで卒業よね。進学はしないの?」 「うん。就職先、見つかったから。」 「そうなの。良かったわ」 お婆ちゃんもお爺ちゃんも、見る度に小さくなっている気がする。 俺が大きくなったのかはわからんけど、寂しい気持ちになる。 「初詣、お婆ちゃんと一緒に行く?」 「そうやね。一緒に行こ。」 「もう年が明けるのね、明日はお掃除しないとね。」 「そうやね」 明日は掃除をして、それから悠介に無事か電話······いや、そんなんしやんでええやろ。 何で俺が悠介のことを気にしなあかんの。 でも、気になる。 「お婆ちゃん」 「なあに?」 夜ご飯を作るお婆ちゃんの傍による。 「お婆ちゃんは何でお爺ちゃんと結婚したん?」 「えー?」 「お婆ちゃんもお爺ちゃんもベータやろ。普通に好きになって結婚したん?」 「私達は親の言う通りに結婚したのよ。」 それを聞いて、驚いた。 お婆ちゃんもお爺ちゃんも仲良しやから、恋愛して結婚したと思ってた。 「そうなん?すごい恋愛したんちゃうの?」 「してないわよ。親の言いなり。お互いに距離も縮められないまま結婚したの。でも、それでもしばらく経てば距離も縮まって、愛情だって生まれるわ。」 そう言われて、そういうものなのかと頷いた。 俺も、悠介との間に愛情が生まれるんかな。 「俺はまだ、恋人が好きかどうかわからなくて······」 「きっと貴方はその人が好きよ。じゃなきゃそんなふうに悩まないわ。」 「······そうなんかなぁ?俺にはわからん」 「時間が経てばきっとわかるわ。」 お婆ちゃんが俺を見て優しく微笑む。 お婆ちゃんは今まで俺に嘘をついたことがないから、きっとほんまのことなんやろう。

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