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第307話
病室に着いてお婆さんが先に中に入っていき、その後ろについて入った。
「旭陽」
「······お婆ちゃん、どうしたん?毎日こんでええのに。大丈夫やで、俺。」
「今日はお婆ちゃんだけじゃないわよ」
「え、誰が······っ?──······ゆう、すけ······」
旭陽が目を見開いて俺を見る。
傍に寄ると、旭陽の目に涙が浮かんで、それが頬に零れた。
「な、何で?何でおんのっ?俺、なんも言うてへんやんっ!」
「······話、聞いたよ。」
お婆さんは俺達の様子を見てそっと静かに部屋を出ていく。
「全部聞いた。」
そう言うと旭陽は表情を歪めた。
「ご、めん······ごめんね、俺が、旭陽に会いに行ってればこうはならなかったかもしれないのに。」
「······何でお前が謝んの。」
旭陽の体調が悪いのは、目に見えてわかった。
「俺の、大切な人なのに、守れなかった。」
「俺は平気やから。大丈夫やから。他のオメガでもっと酷いことされてる人だっておるやろうし、やから大丈夫。」
「大丈夫じゃないでしょ!」
今度は俺が耐えられずに泣いてしまう。
泣くつもりなんてないのに、悲しくて仕方ない。
「ゆ、悠介······」
「大丈夫なんかじゃないっ、辛くて悲しいはずなのに、そんな嘘つかれたって嬉しくないんだよ!」
点滴を繋がれている細い腕。そこについているいくつもの痣。きっと襲われた時に拘束されたに違いない。
「旭陽、お願い。辛い時は辛いって言って。強がらなくていいから、お願い。」
「っ······でも、皆が悲しむから······」
「1番悲しいのは旭陽だよ。」
そう言うと旭陽が俺に手を伸ばしてきた。
その手を取ると、引っ張られて旭陽の腕の中に閉じ込められる。
「お、俺が、泣いたの······誰にも言わんとって······」
「言わないよ」
旭陽を強く抱きしめる。
折れてしまいそうな程華奢な体。小さく震える背中を何度も撫でる。
「悠介······」
「たくさん泣いて、我慢しないで。」
我慢したっていい事は無い。
旭陽が泣き止むまで、しばらくそのままでいた。
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