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第308話
旭陽が少し落ち着いて、俺をぼんやりと見る。
泣いたから、目元が赤い。後で冷やしてあげないと。
「悠介」
「何?」
今にも壊れてしまいそうな程脆くなっている旭陽。手を取ってぎゅっと握ると、また泣きそうな顔になる。
「悠介······俺、悠介じゃない人達に、抱かれちゃった。」
「······うん。辛かったね」
「めっちゃ、痛かってん。やめてって言うても、やめてくれへんし······そ、れに······」
「旭陽が辛くなることは言わなくていいよ。」
そう言うと俯いた旭陽が、「抱き締めて」って小さく呟いたから、そっと震える体を抱きしめた。
「中で······出されてん······。妊娠する確率はほぼ無いって······。でも、気持ち悪くて、嫌や······」
「············」
「ぜ、んぶ······初めては、悠介がよかった······」
傷ついてる旭陽に、なんて言葉をかければいいんだろう。
「······ごめんね。もっと、気をつけてたらよかった。」
「あ、やまらないで······」
「ごめん、悠介······」
旭陽の涙が俺に移る。
頬を伝うそれと、口から漏れる嗚咽。
俺が支えてあげないといけないのに、泣いちゃダメだとわかっているのに。
「悠介、俺、ちょっと眠たい」
「うん。ずっと傍にいるから、安心して眠って。」
「ありがとう」
涙を拭いて、旭陽の体をそっとベッドに寝かせた。
「おやすみ、旭陽」
「うん。おやすみ、悠介」
手は繋いだまま、旭陽が目を閉じる。
そのまま、嫌な記憶を忘れて欲しい。
暫くすると小さな寝息が聞こえてきた。どうやらちゃんと眠れたらしい。
旭陽の顔を覗けば、穏やかな表情をしていた。
点滴が無くなる頃に看護師さんがやって来て、旭陽が眠れてるのを見て「よかったです」と言って点滴を取っていく。
それが終わる頃にお婆さんが戻ってきた。
「あら、旭陽は眠ったの?」
「はい」
深く眠れている。
もしかして俺が来る前に、何か薬を処方されていたのかもしれない。
「薬、飲んだんですかね。急に眠たいって」
「······貴方が来て安心したんじゃないかしら。」
お婆さんがそう言って旭陽の頬を撫でる。
もしお婆さんの言葉が本当なら、暫くはずっと旭陽の傍に居ることにしよう。
旭陽が安心できる場所を、俺が作ってあげないと。
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