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第309話 旭陽side

全部忘れられてたらよかったのに。 久しぶりに深く眠った気がする。 目を開けると、傍には悠介がおって、俺の手を掴みながらぼんやりと窓の外を眺めてた。 「ゆうすけ」 「あ、起きたの?」 優しい表情で俺を見た悠介が、俺の頬を撫でてキスをしてくる。 「おはよう」 「······今、何時?」 「夜の7時。お腹すいたでしょ?ご飯食べようか」 少し前に持ってきてくれたんだ、と言ってラップのかかった病院食を見せてくる。 「······食べられへん」 「気持ち悪い?」 「うん。」 番じゃない人間にヤられることが、こんなに辛いって知らんかった。 未だに吐き気がする。胃がムカムカして、食べられる気がしやん。 「じゃあせめてこれだけ飲もう?」 ヨーグルトの飲み物を見せてくる悠介。コクっと頷くと蓋を外して渡してくる。 口をつけて軽く傾けると口の中にヨーグルトの味が広がった。 これはまだ飲める。美味しいかどうかはわからんけど。 「先生がね、あと2日くらいで退院していいって。そしたら家に帰る?寮に戻る?」 学校があるから、寮に戻らなあかん。 でもそんな理由より先に、求めてるものがある。 「······悠介と一緒におりたい」 「じゃあ、寮に帰ろうか。」 「うん」 ヨーグルトを飲み終わると空になった容器を悠介が受け取ってくれた。 「寮に戻っても、旭陽が学校に行きたいって思うまでは行かなくていいからね。ゆっくり休もう。俺も傍にいるから。」 「······迷惑、違う?」 不安になって聞けば、悠介は小さく笑って俺の頭を撫でる。 「そんなわけないよ。」 「······ありがとう」 悠介は多分、どこまでも優しい。 俺のことを考えて行動してくれる。 そんな人に、俺はまだ好きって伝えられてない。 「悠介」 「ん?何?」 「······ずっと傍におって」 離れて欲しくない。

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