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第324話
「ただいま」
「ん、おかえり」
部屋に戻るとお腹がすいていたのか、クッキーを食べる千紘がいた。
口いっぱいに頬張っていて、それがリスのようで可愛い。
「そんなに食べるのか?太るぞ」
「だってお腹すいたんだもん!太るなんて言わないで!」
「まあムチムチの千紘も可愛いだろうな」
「ムカつく!」
残りのクッキーを入っていた箱に閉まった千紘は、俺をギロっと睨む。
「高良先輩は?元気だったの?」
「ああ。」
「そう。それならよかった。」
立ち上がった千紘は、俺の横を通り過ぎてクッキーを片付けに行く。
「千紘」
「何?」
すぐに戻ってきたその体を腕の中に閉じこめる。大人しくされるがままでいる千紘の顔を上げさせて、噛み付く様にキスをした。
いつもの優しいキスじゃなくて、千紘を追い詰めるような息をつく暇もない程荒々しいそれ。
苦しそうに薄く開いた目から涙を流した千紘を見ても、それは止められなかった。
「んっ、ぢゅっ······ぁ、は······っ」
俺の服を皺ができるほどに強く掴む千紘の手は、俺よりも小さい。
力が抜けてしまって、俺に寄りかかる体を抱き上げ、ベッドまで移動する。
「ぁ······ハァ、はぁ······」
もし、本当に千紘が襲われたら?
考えれば考える程、怒りや悲しみに似た感情が湧いてくる。
「偉成······?どうしたの?お、怒ってるの?」
「千紘······」
頬に唇を落とし、首筋に指先で触れる。
「ねえ、匂い······怖いよ、怒らないで······」
「怒ってないよ」
「嘘っ、怖い匂いしてるもん······!」
いっその事、千紘が俺から離れられないように括りつけておけたらいいのに。
「やだ、怒らないで······」
千紘の服を脱がせようとすると、その手を止められる。
「な、にかした······?」
本気で怯えてる姿を見て、スッと熱が引いた。
何をしていたんだ俺は。
千紘が傷つくような事はしてはいけないのに。
「わ、悪い······」
「······怒ってない?」
匂いが変わったのが千紘にはわかったようで、千紘の腕が俺の首に回り強く抱きついてくる。
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